偶然と想像

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ストーリー:第一話。仲の良いつぐみ(玄理)から、最近会った男性(中島歩)との出会いの話を聞かされた芽衣子(古川琴音)は、急に思い立ってある場所に行く。そこにいたのは・・・ 第二話。奈緒(森郁月)はある目的で、自分が通う大学の教授であり作家である瀬川(渋川清彦)の研究室を訪ねる。ファンであることを告げる奈緒に瀬川は・・・ 第三話。久しぶりに仙台に帰った夏子(占部房子)は、偶然にあや(河井青葉)とすれ違う。20年ぶりの再会に、あやは夏子を家に誘い、昔話を始めるのだが・・・

「ドライブ・マイ・カーの」と、とりあえず付けないわけにいかない。濱口竜介監督の短編オムニバスだ。ある意味大作の『ドライブ・・・』と比べるとさらりと見られる。全7作の短編集の構想で、とりあえずの3作だ。僕的には十分楽しい映画だった。でもふと思い返すと、どんな人が楽しめるのかなあ。なんだか想像しづらくなってきた。

コロナ禍もあって、ここ2年映画の興行収入は少し落ちているけれど、洋画の公開延期や配信公開が多いのもあって、日本映画のシェアはすごく高くなっている。去年の興行収入上位がこれだ。僕はこの中の2本しか見てない。っていうか、なんの映画かわからないのがけっこうある。劇場で見たのは1位の『シン・エヴァ』1本だ。たぶん上位作品を楽しむ人には本作あまりぴんとこない。

『ドライブ・マイ・カー』もそうだけど、普通に日本国内でロケをし、主に日本人の役者が演技している割に、日本ローカルな香りが少し薄い感じがする。あえて日本らしいアイコニックな風景はまず撮らないし(『ドライブ・・』では伝統集落的な景色はあったけれど)、セリフ回しもそうだし、脚本・演技自体、音楽でいうJポップ的節回しやコブシ感は排除されている。村上春樹の受容され方と少し似たところがあるかもしれない。

3作は連作とかじゃなく、それぞれちがう登場人物のちがうエピソード。1作はSF的な設定さえ入っている。と言っても絵の感じも空気感も後味も共通のものだ。主な登場人物は2人か3人。関係性も共通していて、1人が少し逸脱した行動をする側で、もう1人の平穏をざわつかせる。ある種の愛がそこにある。プロローグがあって(逸脱した行動をとる動機)、メインの2人のちょっと緊張感がある会話劇があって(だれかの平穏がざわついて)、シメのエピソードがあって(登場人物に何かの変化が訪れて)、という構成も共通だ。

濱口監督独特の撮影方法はここでも使われていて、演技の前にセリフをひたすら読み、役者が体に入れてから撮影する。それでも、というかむしろその効果なのか、役者たちの発語はどこか人工的な雰囲気があって、見ている僕は「芝居を見ているな」と常に意識させられる。その中で『ドライブ・・・』と同じように、物語の中で登場人物がある種の演技をしながら話しているシーンがところどころにあるのだ。

設定がどれも少し現実から遊離しているうえにそういう演技なので、人生の一片を見ているというより、実人生にもにあるエモーションを抽象化したなにか、というふうにも見える。その辺はよくできた短編小説で時々感じるのと似ているかもしれない。

 

下の4つ、本作が銀熊賞を受賞したベルリン国際映画祭公式のクリップだ。物語はこれじゃ見えないと思うけれど、なんとなく感じがわかるんじゃないか。

第一話 魔法(よりもっと不確か)

第二話 扉は開けたままで

第三話 もう一度

第一話は『街の上で』でもいい感じだった古川琴音が「怖い子供」的存在感になって中島歩を受け身にさせるのが面白い。第二話は、大学教授渋川清彦が面白すぎる。こちらも男性である教授が受け身のところから始まって・・・この話はちょっとしたセクシー小噺的なニュアンスがあって僕には一番面白かった。第三話の占部房子は、前にすごくよく似た女優さんがいたよね・・・思い出せないけど、小林薫と夫婦役をやっていたような。微妙な危うさを醸し出すことができるとことも似ているのだ。

撮影は1台でやっているそうで、その割にカットが切れてもセリフの流れがそのままに続いていく。編集が巧みなんだろうか。録音のテクニックなんだろうか。見ていてリズムが良くて気持ちいい。

 

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