ゲット・アウト



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ストーリー:NYで活躍する若手写真家、クリスは恋人のローズの実家に呼ばれてちょっとナーバスだ。クリスはアフリカン・アメリカン。白人家族のところへ行くのだからどんな顔をされるのか分からない。どことなくぶしつけな親父、いかれている兄貴。しかも家では2人の黒人が下働きをしている….クリスはますます居心地が悪くなる。週末に奇妙なパーティーが開かれる。1人だけ黒人が混ざっていた。白人の老女とカップルのようによりそう若い黒人だ。ほっとして彼に話しかけるクリス。でもまったく話が合わない。周囲の雰囲気すべてに不吉なものを感じたクリスは早めに帰るとローズに告げる。夜。「すぐに出よう」とせかすクリスだけど、ローズは…..
アフリカン・アメリカン=黒人が主役級になるアメリカ映画。最近だと『ストレイト・アウタ・コンプトン』も『ムーンライト』も、貧困地区になってしまった黒人(やヒスパニック)の街が舞台の、たぶんそれなりにリアルな日々の描写があった。いっぽうウィル・スミスやジェイミー・フォックス級になると黒人であることの必然性がそんなにない役でも主役を張ったりする。それと、ちょっと前はエディ・マーフィー的なのもあった。つまりコメディだ。本国ではあるんだろうけど、最近日本じゃ公開してない気がする。
本作はちょっとめずらしい、「黒人のおかれた社会」の描写がありつつ、けっこう荒唐無稽な、なんというんだろう、サスペンス+ちょいホラー+アクションものだ。しかも監督ジョーダン・ピールは現役のコメディアン。
ジャンルとしては「異文化のコミュニティに1人で迷い込んでしまった都市住民の当惑」モノといえなくもない。ホラーというか「村人たちがだまって共有している恐怖のしきたり」的な要素ももちろんある。主人公クリスのアウェイ感は、最初の違和感・よそもの的な居心地の悪さから、村全体がかかえる秘密への恐怖へと変わっていく。『ウィッカーマン』『ホットファズ』もそのアレンジだよね。あとは「田舎の純朴そうな住民がじつは」的な展開はシャマラン監督の佳作『ヴィジット』の香りもわりとある。黒人ものとこの組み合わせはなかなか新鮮。白人たちが「なんだか分からない異人」扱いになっているのだ。


この手の展開の定番として、異文化コミュニティ側に主人公と話が通じる人が1人いる。たとえば、その村で生まれそだったけれど、旧弊な風習が嫌で街に出てきて、主人公と出あう、みたいな人だ。その人が主人公を異文化へと連れて行き、孤独で不安な主人公の唯一のたよりになる。本作でいえば美しい(ちょっと顔が四角いが)長女、ローズだ。リベラルで実家の価値感にもなじんでいない風のローズ。だから「ここはヤバい!」と確信したクリスは、さあ一緒に帰ろうというのだ。でも残念ながら、たいていの作品でゆいいつの救いだったはずの相手は…..という展開になる。『ウィッカーマン(リメイク版)』はまさにそれだ。さて本作ではセオリー通りかどうか。
おはなしは十分に荒唐無稽だ。村の「秘密」は、まぁ生々しすぎないくらいに寓話化しているし、あんまり真に受けるものでもない。でも黒人に向けられがちな「あいつら身体だけはとにかく違うからなぁ』という視線の、当事者たちの気持ち悪さがどことなく伝わってくるし、主人公の視線を借りて、黒人が日々あう不快感あるあるの描写にもなっている。クリスが違和感を感じた3人の黒人たちの秘密がわかってくるあたりなんてなかなかだ。ちなみにこのどことなく可笑しい3人は、黒人のフェイクみたいに見えるなんとも不思議な顔にメイクされていて、特殊メイクでもないのに漫画のキャラクターみたいに一度見たら忘れない顔つきになっている。メイドもパーティーであう男もすごいよある意味。

それとこの映画、黒人版『ホットファズ』めいた、〈大人の男の中学生っぽい友情〉モノでもあって、NYでクリスの留守中、飼い犬の世話を引き受ける空港警察の職員ロッドが、『ヴィジット』におけるお母さん役、つまり異世界にいる主人公のゆいいつのまともな世界とのつながりになる。主人公の異変を知ったロッドは、物語のためとも見える、ふつうそこまでしないぞレベルの熱意で友人の行方を探しはじめる。あんがい有能な彼は、でも中学生っぽく卑猥な妄想であたまが一杯になってしまうのだ。

とにかくお話的にいえば、みるからに保守層の(主に)高齢白人たちが、異様で不吉な存在。明白に、まぁ敵役といってもいい。そしてクライマックスときたら……全般に言えることは、敵役的な相手に、それなりの正当性を与えて物語のバランスをとろう、とかいう気配はまったくなくて、娯楽映画らしく小気味好く割り切る。人種ネタで単純な敵味方の図式をつくり、娯楽作におとしこむ、先鞭は『ジャンゴ つながれざる者たち』、『イングロリアス・バスターズ』、つまりタランティーノだ。予算がせいぜい5億円の本作は、公開してみたら大ヒットし200億近い興行収入になった。つまり昔のブラック・エクスプロイテーションみたいにマイノリティだけが見たというわけでもなさそうだ。メジャーをねらった映画で、この作りはありになってきているんだなぁとは思った。
まとめ的にいえば、『ジャンゴ』+『ヴィジット』と言う感じかな。
■写真は予告編からの引用