WALKABOUT 美しき冒険旅行


<予告編>
ストーリー:オーストラリアの都会に住む少女と幼い弟。2人はパパのフォルクスワーゲンで砂漠にピクニックに来た。おもちゃのピストルで遊ぶ弟。ところが急にパパが本物のピストルをぶっ放し、あげくに自分に向けて発射し車は爆発してしまう。砂漠におきざりになった2人はあてもなく歩き始める。何日かの放浪のあとオアシスで力なく休んでいると、1人で旅するアボリジニの少年と出会った....

『ソングライン』という本がある。旅する作家ブルース・チャトウィンが、アボリジニたちの見えない道路ネットワークを旅した話だ。神話と密接にかかわるその道は砂漠を越えて遠く離れた集落をつなぐ。短いもので数キロ、長いと数百キロになる。もちろん建設された道路じゃないし、代々つたわる地図があるわけでもない。かれらは歌でそれをうけつぐのだ。歌詞にはルート上のランドマークが入っていて、メロディやリズムにも重要な情報が織り込まれているそうだ。アボリジニの少年は、大人になるためのイニシエーションとしてそんな道なき道をたどって1人で旅をする。だいたい6ヶ月の放浪だ。イニシエーションの孤独な放浪。これはどんな文化圏でもあるだろう。『イントゥ・ザ・ワイルド』の青年の旅もおなじ。人間じゃなくてもあるくらいだ。はぐれ猿なんかそうだよね。
映画は、そんな少年に、征服者であるイギリス系の姉弟がであうお話。1971年、ニコラス・ローグの初期の監督作品だ。青春期の大自然の放浪を西欧文明の少女も体験する。考えれば『15少年漂流記』にもある伝統的モチーフなのかもしれない。お話はリアルの追求というよりはファンタジックで、詩的な映像だ。放浪の発端からしてたいした説明もなくシュールだ。少女も弟の男の子も、学校帰りの制服+革靴スタイルで砂漠を旅する。飢えや渇きのシーンもあるけれど命に関わるところまでは追い詰められない。サバイバルがテーマじゃないのだ。そして砂漠をよく知る少年といっしょになると不安も消えて、美しい景色のなかでのびのびとウォーキングを楽しむのだ。少女と弟は少年が狩ってくれた野生動物の肉をむさぼり食う。もちろん映像の力点は「大自然のなかの美少女」で、そこはゆるぎない。制服のミニスカートで灼熱の沙漠を平気で走破するし、しまいには澄んだ池に到達して、期待を裏切らず大自然状態になって泳ぐ。

こういうとむかしの『青い珊瑚礁』『パラダイス』系じゃないの? と思う人もいるだろう。たしかにそんな設定だ。舞台は暑い気候じゃないといけない。男女が必然的に半裸になるためにね。ここはあってる。たいした意志を持たない弟は『パラダイス』でいえば若い2人の間にいるチンパンジーの役だ。2人の邪魔はしないだろう.....でもこの映画の2人の盛り上がりは、そこまでだったかなぁ.....?  見たのがけっこう前だから細かいところはよく覚えてないけど。日焼けでヒリヒリする背中に少年がオイルをすりこんであげるシーンもあるけれど、その相手は幼いボーイのほうだった。

やがて3人は廃屋にたどり着く。だんだんと文明のエリアに近づいてきていたのだ。人家じゃなかったことにがっかりする少女。狩りに出た少年と弟が見たものは。ムードは急変し、自然と共生しない、自然環境を搾取するだけの「文明」を苦々しく描く。少女に心を寄せはじめていた少年も、自分が属する文化と、そこに侵入して占有していく文化との断絶をあらためて見てせつけられて絶望する。
そんな感じでお話はベタな意味でのロマンティックなものじゃなく、唐突に途切れるようにおわる。でも語り口調といい題材といいクラシックな美学に満たされたロマン主義的ともいえる作品に見える。脚本はたったの14ページ。撮影監督ニコラス・ローグの初監督作はやっぱり映像に語らせる一本だった。