噂の女


<予告編>
舞台は島原。主人公は芸妓や娼婦じゃない。お茶屋の女主人とその娘だ。毎晩のお座敷の予約を受けて、芸妓を手配し、料理や酒の差配をする。話は3作のなかで一番軽い。母(田中絹代)のもとに東京で失恋して自殺未遂したという娘(久我美子)が帰ってくる。どうやら実家の商売が原因で婚約が白紙になってしまったようなのだ。きらいな実家でいごこちわるくすごす娘。母には年下の医師である愛人(大谷友右衛門)がいる。愛人を援助して独立させて夫婦になりたい母だけど、いつの間にか愛人は娘と仲良くなっている。恋にやぶれた母はそれでも店を抵当に入れたお金を愛人に渡す。男の適当さに怒り心頭に発した娘はバルタン星人のごとく大はさみを持って立ち上がり、男から金を取り戻して別れをつげる。そして失恋で寝込んだ母のかわりに、あれだけ毛嫌いしていた店を若女将よろしくてきぱきとしきりはじめるのであった……といつのまにかただあらすじをなぞりだしていた。
ここではいわば外注先というか派遣労働者として花魁や芸者がやってくる。時代設定は戦後のはずだけど、花魁ならではの高下駄に横兵庫 に結った芸者もかっぽしていて、風俗のふしぎさに思いをはせざるをえない。(ちなみに「花魁 髪型」とかで画像検索するとやけにDQNテイストの画面になる謎!) ラスト近くで、3作共通のプロットだけど、若い娘が芸者の道に入ろうと決意を固めるシーンがある。それをみて風格ある花魁が「あとからあとからこの世界も人材がきてしまうんだねぇ」的になげくのだ。つまり自分たちみたいにこのろくでもない世界はいっていく境遇の娘たちはいつまでたってもいるんだねえという慨嘆だ。
3作共通(というか作風なのだろう)でまともな男はいない。お座敷にやってくる上機嫌な酔客のうざさは戯画的なまでに強調されているし、そもそも愛人役の大谷友右衛門は当時でいえば時代劇スター、しかもその後は上方歌舞伎の代表的女形になったような役者なのに、なんともいえない微妙な演技と存在感にしか見えないのはわたしの観賞眼のせいなんやろか。ちなみにこの映画のお茶屋は、残念だけどあまり魅力的な魔空間に見えない。恋愛ドラマの舞台でしかないというかね。そんな風に見えた。