若尾文子2本 女系家族 & 最高殊勲夫人 

女系家族

f:id:Jiz-cranephile:20210731101747p:plain

ストーリー:昭和30年頃の大阪船場、老舗問屋の主人が死去した。大番頭が遺言状を読み上げる。遺産は3人の娘に分けられるのだ。矢島家は代々女系で主人も婿養子だった。当主を自認する長女(京マチ子)は配分に納得しない。もう一つ家族が知らない火種があった。元芸者の愛人(若尾文子)がいたのだ。「愛人にもくれぐれもよろしうに」という遺言、しかも彼女のお腹には子がいるらしく.....

大映、1963年公開。「白い巨塔」「沈まぬ太陽』などで知られる山崎豊子の小説が原作だ。彼女は船場の昆布問屋の生まれだから、この世界はお馴染みだ。小説発表が1963年、映画公開が同年。この時代はとにかく反応が早い。監督は三隅研次

日本の映画やドラマで三姉妹四姉妹ものは小さいながらも1ジャンルだ。『細雪』『阿修羅のごとく』みたいなクラシックから『海街diary』、アニメも色々思い浮ぶ。朝ドラだとこのパターン何度も出てくる。で、本作は姉妹ドラマの中では相当ふりきっている。ホームドラマというよりピカレスクロマンの香りさえするのだ。

物語は遺産争いゲームに集中していて、抒情的なシーンはほぼ皆無だ。姉妹が幼い頃を思い出してしんみりしたり、先に逝った母親を懐かしんだりとかは一切ない。そもそも母親自体、暖かく家族を包む存在じゃ全くなさそうなのだ。だから話はこの上なくドライである。

f:id:Jiz-cranephile:20210731101826p:plain

キャラクターはみんなゲームのプレイヤーだ。離婚して実家に戻った負い目がありつつ、つねに声を張り上げる長女。まったく婉曲もなく要求をストレートに主張するので実にわかりやすい。婿養子をもらいビジネスを受け継ぐが当たりは弱い次女。「まだ子供ですし」スタンスを守りつつドライな三女。そしてベテランの殺し屋よろしく三女の相談役として戦闘に参加する叔母(浪花千栄子)。溝口作品『祇園囃子』の遣り手婆さん役に引けを取らないハードなキャラだ(あちらでも若尾文子に辛く当たっていた)。

愛人は、本家からはとうぜんうとまれ蔑まれる。若尾文子は得意の悪女じゃなく逆境に立ち向かう凛とした女性として描かれ、叔母がエクストリームなまでに強烈に当たるので、観客はもはや戸惑いながらも彼女に同情せざるを得ない。ちなみに文乃が住むのは住吉区神の木町。上町線の神の木駅も映る。土地勘がないけど東京でいえば曳舟あたりの感じなのかな?

f:id:Jiz-cranephile:20210731102044p:plain

男性キャラクターの筆頭は大番頭だ。なんとも風采のあがらない初老の男だがいやに眼光が鋭いと思ったら上方歌舞伎の重鎮、中村鴈治郎なのだった。遺言執行人として、商売の実務を押さえる番頭として、暗躍する大番頭は物語のキーになる。初老の彼相手に妙に男女の香を漂わせる中年女も実にいい。

こんな感じで、明快なキャラクターを名優たちが存分に演じている。それを巨匠宮川一夫のカメラがスタイリッシュに写しとる。いまさら巨匠をほめてもしょうがないけれど、大勢が集まる場の空気をとらえる配置と構図、長めのパンの中で一つの物語を描き出すショット、伝統的な世界の中に現代の都市の景色をキラッと差し込んでくる絵...素晴らしすぎる。

本作の引き締まった雰囲気は、もちろん三隅監督の演出や編集が大きいだろう。でも撮影もそうとう貢献している。昭和中期の景色なんて時代劇以上に古臭く見えてもおかしくないけれど、それを感じない。古い大阪の大店や木賃アパートの建築美も、下町の風景の中に富豪の女たちが乗る巨大なアメ車が乗り込む感じもシンボリックだ。

そしてラスト。オチはもちろん伏せるが、納得度は高い。このゲーム、誰が勝ち抜いたのか? で、誰がシナリオを書いていたのか?的面白さはなかなかだ。

 


■最高殊勲夫人

f:id:Jiz-cranephile:20210731102432p:plain

ストーリー:野々宮家の三姉妹、長女は三原商事の若社長(船越英二)と結婚、次女は社長の弟と結婚した。長女は三女(若尾文子)と三原家の三男(川口浩)の結婚をもくろむ。決められた結婚をしたくない2人はそれぞれ「好きな人がいるし」と言いながら、それでもおたがい気になるようす。姉のプッシュで三女が三原商事で勤めだすと、プロポーズしたい独身社員たちが押し寄せる…

大映、1959年の作品。当時の流行作家、源氏鶏太の小説の映画化だ。監督は増村保造。ジャンルでいえば、これも三姉妹モノ、かつオフィスラブコメだ。主人公だけじゃなく、ロンドみたいにあっちこっちで恋が芽生えている。たぶん1930〜50年代のハリウッドのスクリューボールコメディ的なものを目指したんだろう。男女が気の利いたセリフで応酬しながら、でも気持ちはだんだんと….という王道の展開だ。

丸の内の若い勤め人たちを見せる都市の風俗映画でもある。源氏はサラリーマン作家で、会社モノが得意なのだ。丸の内と新橋の会社の空気感の違いもきっちり描写してくる。TV局やちょっと気の利いたバー、ロカビリーのライブバーなんかも出てくる。『明日来る人』や『銀座二十四帖』と同じ、戦後の辛いとこは脱して女性も自由になったし、明るいとこ見せていこうぜ、というスタンスだ。

f:id:Jiz-cranephile:20210731102454p:plain
女性は楽しげに働き、いい男がいればまっすぐアプローチする。ただ、女たち男たちが探している相手は恋人じゃない。結婚相手だ。好きになって告白するんじゃなく、いきなり結婚!なのだ。自由な男女を描いているようで、結婚という制度の呪縛はまだまだ相当強いぞ....と感じさせる物語でもある。ラブコメと書いたけれど、甘いシーンはよく考えるとほとんどない。まあ自由恋愛の結婚を礼賛してるんだろうね。かすかに占領政策の香りがしないでもない。

若尾文子はまっすぐな陰のないお嬢さん役。今でいうと広瀬すず的あり方だ。相手が川口浩。ぼく世代だと探検隊長イメージしかないが貴重な青年時の姿だ。姉の旦那が船越英二。『黒い十人の女』の浮気者役に通じる、整った顔なのに威厳がなくふらふらして、どこかこっけいな社長。庶民派で社長一家に馴染めないお父さんは宮口精二。『七人の侍』から5年後だ。

オープニングが当時のフランス映画みたいでものすごくオシャレだ。丸の内あたりのオフィスビルファサードを正面から撮り、建物のグリッドを画面デザインに使ってクレジットをグラフィカルに見せる。ちょっと惜しいのはときどき引きが取れなくて、水平垂直に撮りたいところが斜めに歪んでしまっている。

■写真は予告編からの引用