17歳の肖像[An Education]


<予告編>
年に300本以上見るという居酒屋店員の女の子が絶賛していたこの映画、なんか主人公の子がぴんとこないなと思いながら2回見てからやっと気がついた。どう考えても女子映画だったのだ。だってこれ、17歳の女の子の愚かさを全肯定する話なんですもの。精いっぱい背のびして大人の世界も平気よって顔をして、先生を幼稚な理屈でやり込めたつもりになって、男とは対等な大人の女として対峙したつもりになって、そのくせ与えられたものすべてに舞い上がって....そんな少々こっ恥かしい高校生に共感したり、さかのぼって夢見る女子はけっこういるはずだ(仮説)。おっさんがああだこうだつっこむ不毛さは荒野の風に吹かれて転がるタンブルウィードなみだったのだ。
男子映画ってあるでしょう? 中学生や高校生が、性で120%頭が一杯になって無駄なエナジーに昇華したり、サル山のサル的にご町内の覇権争いに全精力をつぎ込んだりするやつ。あれは女性からみると相当アホらしいんじゃないだろうか。というかぼくもあまり興味ないけど、でもわからないでもない。だって年だけとった今でも十分すぎるくらい愚かなんだから。ほほえましく愚かでいられた時代が素敵に見えることもそりゃあるだろう。
というわけで、たぶんこの映画は実写少女漫画として見るのがただしい。女性のファンタジーにお邪魔させてもらう感じだね。ヒロインのジェニー(キャリー・マリガン)も、美しいんだろうけど、他の主役級女優みたいな隙のない容貌とは違う、どうみても等身大系の、ゆるいバランスの顔だ。『ドライヴ』のヤンママ役よりさらに未完成感がみなぎる、そういう意味では純朴な女子高生にはぴったりの雰囲気だ。

ストーリー:1961年。ロンドン郊外の女子高に通う16歳のジェニーは優等生。パパの説教をBGMにオックスフォードをめざしている。ある日高級車を転がす洒脱な30男、デビッド(ピーター・サースガード)が現れる。デビッドは「いや、変なアレじゃないですし」という顔でさっさと両親とも仲良くなり、親公認で娘を連れ出すようになる。思ったほど上品でもカタギでもなかったデビッドにときどきとまどうジェニーだが、夢みたいな日々に、学校も進学もアホらしく見えてくる。彼女が17歳になったとき、男は二人きりのパリ旅行を提案する....
実話ベースのこの話、どの程度話が盛られているんだろう。シンデレラ・ストーリー風に、彼女はきれいな服を貸してもらい、メイクされて(っていう設定だと思うたぶん)、華やかな場所を連れまわされる。リッチな気分になる画面だし、メイクとか完成度高すぎじゃないかと思えなくもない。でもこの着替えタイムが映画的には欠かせないわけだ。観客層を考えればね。こんなに無批判に「あこがれの巴里」が撮られてるのを見たのは『プラダを着た悪魔』以来かもしれない。日本の少女漫画のなかでは十分あこがれのロンドン郊外の女の子にとっても、パリが特別な存在だというのが面白かった。
私にはやさしい王子様だけど、彼けっこうワルなの。.....よく考えるとこの展開もポニーテール系少女漫画とかじゃ定番ぽくないか(注:分かると思いますが私の少女漫画認識は20世紀で止まっています)。『プリティ・ウーマン』のリチャード・ギア的立場でもありつつワルでもあり、しかもじつはたいして洗練されてなくて、下手するとジェニーより文化を知らなかったり、とつぜん下品なおっさんになったりするのだ。意外と底が浅い。ピーター・・サースガードは、キーファー・サザーランドともて男役だった頃のミッキー・ロークのミックスで、見かけもキャラも決して王子様でも完璧紳士でもないところがこの映画の味かもしれない。

溝口映画じゃないけれど、格好いい男はこの物語にはいない。パパは自分のぱっとしない人生の代償を娘の成功に追い求めるタイプで、最後には虚勢をはる元気もなくしてしまう。あこがれの大人の男たちは実はチャチなチンピラだし、同級生のボーイフレンドはこの先10年は修行が必要なグリーンボーイだ。結局、彼女のメンターは、最初はつまんない人生を送っているとバカにしていた先生だった。『ゴーストライター』で最強の美女を演じたオリビア・ウィリアムスが絵に描いたようなオールドミス風メイクで親身な教師になる。
原題はAn Education 。「教育」というより昔むかしの松任谷由実の歌『ダンデライオン』にあった「運命が用意してくれたたいせつなレッスン」ていう感じだろうね。
よく考えるとこれ男のファンタジーでもある。特に若い男にとって、同世代の女の子が意外に大人の世界を知っていたり、過去になにげに濃い体験をしたりしていると、うわぁ俺なんてそれと較べられると....と思いつつもあれこれ想像を巡らしてしまってたまらなくセクシーに見えてきたりするものだ。ラストはその感じをうまく出している。オープニング、劇中、エンディング、曲は昔のポップミュージック風ですごくいいです。