ウィッカーマン(Ver.1973, Ver.2006)


 <オリジナル予告編><ラジー賞バージョン>
ウィッカーマンドルイド教の儀式に使われた人形だ。木の枝で編んだ巨大な人の形のカゴみたいなもので、中の小部屋にいろいろな家畜が入れられた。中央はひときわ大きな部屋。人が入るところだ。古代ケルト文化のものだから、大部分あとからの想像だろう。この人形が儀式でどんな風に使われたか...映画のクライマックスがそこだ。ま、ポスターかなんか見ればだいたいわかりますよね。1973年公開。
ストーリー: スコットランド西部の 、ある領主が私有している島。一人の警官が水上機で島にやって来た。少女が行方不明になったという通報で捜査にきたのだ。彼は超カタブツのクリスチャン。おっさんなのに結婚までは童貞を守る決意だ。ところが島は古代ケルト風の太陽神信仰に支配されていて、男女も子供も過剰なまでに性にあけっぴろげだった。島の文化にほんろうされながら真相をさぐる警官。大凶作だった去年、ことしこそ豊作を祈る初夏の祭りの日がやってくる...
主人公は警官だ。でも有名なのは島の領主役のクリストファー・リーの方だろう。昔は怪奇映画のスターで、ドラキュラ役なんて何本やったかわからない。2013年の今でも存命中。『ロード・オブ・ザ・リング』『スターウォーズ』『スリーピー・ホロウ』...ファンタジーの長老的な役がぴったりはまるんだよね。この映画自体彼のための企画。ドラキュラもいいけどなんか目新しい...古い信仰モノなんてどうよ? 的なことだろう。

だからか映画の雰囲気も、改めて見るとまえに感じたほどカルトっぽくなかった。ざっくりの印象だと、例えば60〜70年代の怪獣もので、やけに時代の文化的要素が表に出て、ほんらいの目的そっちのけの不思議な味わいを醸し出すことがあるでしょう。あの感じに近くないかな?
物語は王道プロットの一つだ。「何かを隠している村びとのところへ真相を暴こうとよそ者が一人まぎれ込む」モノ。異邦人の不安を物語化したこのプロット、『ホットファズ』が近い。ていうかこっちを意識した設定かもしれない。『リーピング』はこのプロットに忠実なホラー。横溝正史の村シリーズもそうだ。このプロットには「不気味な村にも主人公と話が通じて味方になるやつが一人いる」というパターンがある。だいたいその人間は村のなにかに違和感を感じていて、最後は主人公と一緒にそこから脱出したりすることもある。マンガでもある展開だし、だれでも思い出すのが一つはあるんじゃないか?でもこの映画では、主人公と分かり合えたり、せめて主人公に好意を持ったりする島民が、かわいそうなくらい一人もいない。主人公は最後まで孤独な戦いを続けなければいけないのだ。ま、でも、そこはいちおう怪奇ムービーだから。ゾンビの中に美女一人、とかも珍しくないわけだしな。

もう一つのキモ、「土俗的な性」も際物めいたアプローチで、わざわざヌード用のダブル(代役)を使って美女に全裸誘惑ダンスを踊らせたり、女教師が女児たちに「男根(Phallic symbol)」なんて唱和させたり、いいのか。ていうかねらいはなんだこれは。夜外を歩けば、草原は集団愛にはげむ人々で足の踏み場もないくらいだ。とにかくこの島は「多産」を願うあまりか、古代的なまでに性への賛歌にみちみちてるのだ。村びとが歌うわらべ唄も卑猥な歌詞ばかり。しかしあれだよね。この「異教徒は淫ら」観念ってゼノフォビア(外国人嫌悪)の一種じゃないかね。プライバシーの観念やエロの観念が違えば、異文化の性的な部分はいやでも目に付くだろう。日本人がヌーディストビーチにいけば「のわぁ」てなるし、前に読んだけどケニアかどこかの女の子に日本の女子高生の格好を見せたら、こんな恥ずかしい格好できないといったという….まぁなんだか話がずれてる気もするが、とにかくこの映画の土俗的エロの扱いはおもしろ重視の感じなのである。
ラストはいい感じに突き放して終わる。これにカタルシスを感じるかどうかはまぁ...お客さんの趣味次第ですかな!
関係ないけど、ロケ地はかなりの高緯度にある(このへん)くせに、あれっという木が植えられている。ヤシめいた木やコルディリネの仲間(Cordyline Australis?)で、日本ではトロピカルっぽい、多少エキゾチックな雰囲気を出したい時に使ったりする木だ。ストリートビューにも映ってるでしょ。不用意に真冬に植栽するとあっけなく寒さで枯れたりするから、こんなとこにあるのが意外だった。じっさいはニュージーランド原産で、イギリスでも海沿いの寒さが厳しくないエリアでは植えられてるそうだ。スコットランドの低地部は夏はすずしくても冬の最低気温は0度くらいだから、コルディリネも冬を越えられるんだね。ちなみに領主のお城はここ、クライマックスのある儀式がおこなわれたのはこのあたりらしい。

この珍品がハリウッドでリメイクされたのが2006年の『ウィッカーマン』。警官役はニコラス・ケイジ。じつはプロデューサーも彼だ。ちょっといい話として、ニコラスの親友でもあったラモーンズのボーカリスト、ジョーイ・ラモーンがオリジナル『ウィッカーマン』が好きで彼に紹介したのが制作のきっかけだという。ジョーイは2001年に若くしてガンで死んでしまい、ニコラスはこの映画を彼にささげている。そんな友情物語の末にうまれたらしいこの映画なのに、残念ながら絵に描いたような駄作リメイクだったから驚いた。ちらっと検索したらそこそこ賞を取ってて「ほんとかよ?」と思ったが、主演のニコラスふくめ全部ゴールデンラズベリー賞だった。
最初に意味不明な派手な車激突からはじまって、軽い映画っぷりがひしひしと予感できる。そして「行方不明の娘を探して...!」という別れた恋人の手紙に、警官はワシントン州の離島へと飛ぶ(ロケ地は国境を越えたカナダの島。美しいよ!)まず、島で彼を最初に迎える島民があれだ。オリジナルは普通に田舎のじいさんたちだったのが、リメイクではひとくせありげな老女たち。見るからに悪役顔すぎて笑ってしまうような人相だ。彼が泊まる宿の主人も、オリジナルはぱっとしないハゲのおやじだったのが、こっちでは梅宮辰夫みたいないかつい女主人だ。そしてクリストファー・リーが印象的だった島の領主役は威厳のある熟女。

そう、土俗的エロが売りだったオリジナルから、リメイク版はなぜかミツバチの群れをモチーフにした「女権社会の不気味な生存戦略」みたいな話に変わってしまったのだ。男たちは雄バチみたいにかげのうすーい存在になっている。なんでしょうこの改変は。そのくせ変なところはオリジナルに忠実で、女教師が女児たちに「男根」といわせるシーンは残っている。必要かそれ。そしてますますいいのか2000年代のアメリカでそれは。
とにかくお話としては「不気味な女たちの陰謀」というミソジニー的な世界になった。しかたないのかな、とも思うのは、アメリカを舞台にした時点で、長い歴史をもつ信仰なんてネイティブのものしかないっていうことだよね。怪奇ネタに使うのはたぶんはばかられる。だからいわくありげな何かをひねりださなきゃならなかったのだ。ひとつだけ、改変としては悪くないなと思うのは、さっき書いた、村に一人まぎれ込んだ主人公に、味方になる村人がいるかという件だ。リメイクでは、島には手紙を出した元恋人がいる。もちろん美人で、「ちょっとここじゃ話せないことがあるの」みたいに彼の手を引いていく。「あー、こっちパターンにしたわけね、入りやすいしな!」とさらになめてかかった。
オチは、ひょっとして見てみたいという奇特なかたがいるといけないのでいわないけど、一応ひとひねりある。まぁ、だとしてもどうせ見るなら珍品の味わい深いオリジナルをおすすめだ。ファーストシーン、水上機で島々をかすめていく感じがすごくいいよ。