モネ・ゲーム(Gambit)


<予告編>
ストーリー:美術品の鑑定家ハリー(コリン・ファース)は、クライアントのメディア王シャバンダー(アラン・リックマン)の人を人とも思わない扱いにむかむかしていた。彼を出し抜こうと贋作のプロ、ネルソン中佐と組んで幻と言われるモネの絵を売りつける計画を立てる。その鍵になるのがアメリカ人ロデオガール、PJ(キャメロン・ディアス)。ハリーの話に乗った彼女はカウガールスタイルでロンドンにやってくる.....

「脚本:コーエン兄弟のコメディ」てところにひかれて見た。で、まず思ったのは、これ脚本ができたのがそうとう前なんじゃないかということ。笑のノリとかはそもそも古いコメディをやろうとしてるんだからいいとして(だいたい欧米の「今の」笑いとか知らんし)、物語の設定がいかにも90年代っぽいのだ。
2012年公開のこの映画、wiki先生によるとオリジナル1966年版『Gambit』のリメイク企画が立ち上がったのは1997年だ。コーエン兄弟の脚本ができたのは2000年あたりみたいで、その前後にもじつにいろいろな脚本家、監督、俳優の名前がでてくる。とにかく「紆余曲折」という言葉がぴったりで、気がつけば企画から15年たち、66年の映画を97年に見返す、その半分くらい時間がすぎてしまった。脚本完成からも10年以上だ。モダナイゼーションでこれはどうなんだろう。お話の骨格いかして、設定やセンスを今の観客にあわせるのがリメイクちゃうんけ。
主人公とカウガールはまあいいとして、お金持ちのごう慢なメディア王、ようするにマードックだけど、ネタとしては新しさに欠ける。彼のライバルコレクターは日本人のリッチマンだ。メディア事業で提携しようとしているビジネスマンも日本人。少なくともここ10年はこういう役回りは中国人なんじゃないの。90年代後半の設定としても微妙だ。市場としてでかい中国人観客にとっても、役が中国人になってマイナスはないと思うけどな。
ライバル東洋人を中国人に書き替えたらなにかかわるかなぁ.....3分考えたけど、あまりかわらない気がする。どのみちかれらは人格を掘り下げられているわけじゃなく、ストーリーのピースとしての機能しかないのだ。だから描きかたもまったくのステレオタイプになる(日本人であるぼくからすると、これも新鮮とは思えないが)。ただし、このベタな描写は伏線で、あとのヒネりを際だたせるためだけどね。

最初に書いたみたいにこの話はコメディで、ギャグもまたベタである。微妙な笑いというより「ここ、笑いどころですんで」とモロに見せるタイプ+ハリーとPJの男女の口げんかモノ の繰り返しといえる。たとえば『ビッグ・リボウスキ』的ブラックな笑いはない。それにしてもギャグの根幹が「おっさんの裸」「おっさん下半身パンツ一丁」って.....とくに「おっさんの裸」は唐突にアラン・リックマンが裸になるだけで、それ以上の拡がりも何もない。「パンツ一丁」にしたって、コリンが上半身スーツ+無難な白っぽいトランクスになるだけで、べつにTバックな訳じゃない。いやべつに見たくないけどな、そんなもん!かたや意味不明全裸なんだからつり合い上そのくらいもありかと.....
とまあ、ぜんたいにどうもリズムにキレがない、あまり印象に残らない一作ではあった。『シングルマン』風のおかたいルックスできめるコリン・ファース、知合いのいけすかないおっさんにどことなく似ているアラン・リックマン、とりあえず役どころにはピシッと合っているキャメロン・ディアス、イギリス映画には欠かせない「軍経験がある年長の補佐」キャラの中佐、あと客を小馬鹿にするホテルマンなど役者はいい。で、オチは「ほほぅ」というモノがあるから、役者だれかのファンなら楽しいかもしれないです。