ドライヴ


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ストーリー:どこからかLAにやってきたワケあり風の寡黙な主人公。昼は映画のスタントドライバーと、スタント用に車を仕立てる修理工場で働き、夜になると犯罪者を逃がすやとわれドライバーになる。ドライブの腕はたしかで、工場の社長は彼の才能でレースシーンに打って出ようと思いつく。アパートの隣のかわいい子連れの奥さんと知り合い、口には出さないもののあきらかにお互い好意を持つようになる。でもムショに入っていた奥さんの旦那が出所してきて淡い恋も終わる。それどころか更正しようとしていた旦那はおどされてもう一度犯罪に加わることになる。奥さんのためなら…とドライバーを買って出た主人公。ところがすべては彼らをハメて強奪した金を全部奪おうという計画だった。旦那は殺され、自分も襲われた主人公は、口にはださないが激怒して復讐を開始する…
この映画、企画がたってまず決まったのは主演のライアン・ゴズリングらしく(ヒュー・ジャックマンが候補からはずれた後に)、彼に「監督をリクエストしていいよ」というチョイスがあたえられて、名前があがったのがニコラス・ウィンディング・レフンだったそうだ。よほどの作家監督じゃないかぎり、たいていの観客にとって映画はやっぱり主演俳優のものだ。監督はドライブ経験もなし(ていうか無免許)、LAの土地勘もなしの手ぶら状態でやってきて、ライアンと一緒に夜のLAをドライブして回ってロケハンしたそうだ。でも、ぼくの印象でいえば主演は置き換え可能な気がするし、監督はカンヌで監督賞をゲットするんだから、幸運ともいえるしチャンスを逃さない有能なひとなんだろう。
この映画、テイストでいうと、僕のなかでは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に近い。語り口はすごく洗練されていてクールだ。ちゃらちゃらしたところは一切ない。映画的格好よさを目指して、実現してる。ただ、その中で語られている犯罪の世界は、どこかコミック的なほどほどのリアルさ、ほどほどの大人びた世界観だ。たとえば悪役のギャングたち。悪指数があんまり高くない。いや十分残虐なんだけど、実録物めいた怖さはあんまりなく、しかも適度に小物だ。復讐の相手としてほどよい感じというかね。主人公もクールで、どうやらヤバい過去を持っている風で、必要なときは一気に残酷になるタフガイなんだけど、その行動は意外に間抜けているところもある。特に真相に迫るあたりはね。

あとはエモーショナルなクライマックスで「そう、俺は残念だけどこういう人間なんだ」という悲しいシーンがある。これが『ヒストリー』のある意味でのクライマックス、父と息子のシーンにそのまま重なっている。ちなみに悪役ニノ(ロン・パールマン)はJ・ジュネの『ロスト・チルドレン』を思い出した。『ヘルボーイ』といい、なんか自分のなかでファンタジー感がある。
そういえば、よくほめられている主人公とヒロイン、アイリーン(キャリー・マリガン)の好意の表現。2人ともあまり喋らないし「ストレートに語らない、目だけで会話するさりげないラブシーン」みたいに言われるんだけど…分かりやすいよ十分! 特に序盤の好意がたかまる辺ね。アイリーンが主人公見る時なんかにっこにこじゃん。正直日本のドラマ(それも中庸なやつ)を思い出したよ。微笑みながら主人公を見つめるヒロイン。わざわざ要所要所でそのカットを入れるんだから、そりゃセリフ無用でしょ。
ぜんぜんこみいった芝居はさせていなくて、編集とか画面のトーンとか音楽とかで、思いあってる感じはすごく分かりやすく表現されている。だから観客からするとアイリーンに何か裏があるか…?みたいな不安感はほとんどないし、それが裏切られるわけじゃなくて、じっさい彼女の無垢っぷりは半端ないのだ。それは断じてキャリー・マリガンがイギリスのルビー・モレノともいわれる親しみやすいルックスだからだけじゃないはずだ。主人公も、ことアイリーン相手になると無理してクールになるようすはまったくなく、速攻でドライブに連れ出したりする・・・というあたりの「可愛い2人の大人」描写がロマンチックなシーンとゴアなシーンのインパクトにつながるんだけどね。

アクション関係でいうと、最初のドライブシーンは新鮮でいい。後半には派手なドライブ=カーアクションシーンが出てくるけれど、この辺の派手さはエロシーンや銃撃戦と一緒で、それなりに楽しいけれど基本的にはおなじみのアレで、どんなに派手でもインフレはあるし、予定調和から逃れられない。最初のドライブは、緩急をつけた走りとその場所の危険度を熟知したルート選択を武器に、派手な走りをせずに警官の包囲網をまき、わけもなくプロっぽい雰囲気とともに映画全体のクールなトーンを予感させた。このへんは元ネタともいえる『ザ・ドライバー』と見比べると楽しいよ。
それから暴力シーン。基本はタランティーノ=たけし的ともいえる、前触れや盛上げなしの、平坦な時間に突如インサートされる一瞬の暴力というリズムだ。特徴としては人体破壊をあえて特殊効果をつかってわかる程度に見せるところ。最大のゴアシーンは『アレックス』以後ともいえる人体破壊描写だ。ほぼまちがいなく監督の頭にあったと思う。このゴアシーンは同時に最大のロマンチックなシーンでもある。
ところで途中で出てくる「サソリとカエルの寓話」というのがある。「わかってるけど俺サソリだし、毒針で刺しちまうのがオレの本性なんだよ、しょうがないじゃん」という話で、主人公のサソリ印のジャケットにもあるようにそのままキャラの説明になってるともいえる。有名な寓話でどこかで聞いた事があったし、たしか別の何かの映画でもネタに使われていた。なんだったかな?