3時10分、決断の時


<公式がないのでImdb>
モダナイズされたウエスタン。これも『トゥルー・グリット』と同じリメイクものだ。原作は『ジャッキーブラウン』と同じエルモア・レナード。『トゥルー』の世界が、どこかシュールでドライで、たとえば聖書の知識がないと飲み込みきれない象徴表現などがあるのにくらべて、本作は正統派のアクションドラマを西部劇に置き換えた、非常にジャンルそのものがわかりやすく、見る時のかまえが楽な映画だ。タフな少女が主人公という異色設定の『トゥルー』とちがい、本作は文字通り男と男の物語。女は絵に描いたようなそえものの役しかいない。「3時10分」は、主人公の任務が完了する時間。彼が護送しているギャングを乗せる汽車が到着する時間なのだ。戦闘が終わったところに汽車がやってくる、このモチーフはいくつか見たような気がする。このブログで西部劇のときにいつも書いている「銃撃戦のリアル度」でいくと、この映画は気持ちよさ優先。早撃ちアクションを見せたり、実に軽く敵をぽんぽん撃ち殺したりで、妙なリアルさは基本的に持ち込んでいない。そのあたりも含めてシンプルに楽しむための撮り方をしている。
ダブル主演で、大物ギャングのウェイド(ラッセル・クロウ)と貧乏な牧場主ダン(クリスチャン・ベール)がほぼ同じ比重で描かれる。物語はダンの成長の物語でもある。南北戦争で負傷し、しがない牧場暮らしで10代の息子に軽蔑され切っている中年男に成長もなにもあるのかというかもしれないが、これはそういう物語だ。
ダンは最初はチープなやさ男にしか見えない。ぐちっぽいしやられてばかりの貧相な牧場主だ。しかしウェイドを護送する旅のなかで、残った最後のプライドだけを命綱に決して意志をまげない。ウェイドも見下していた彼を最後には同格としてリスペクトするようになる。クライマックスのあたりにくるとダンはずっしりとしたヒーローの重みすらかもしだし、だれもがウェイドの内心の驚きを共有するようになる(この辺何が違うか分からないけれどくっきり描き分けられる)。彼が任務に固執するのは誇りを回復するためかもしれないが、同時に報酬もきっちり要求する。寝返りの金は受け取らないが雇い主に増額を要求し、清貧を気取るわけでもない。アメリカの多数の観客にとっては、そういうヒーロー像の方が、成熟した信頼できる男にうつるのかもしれない。
いっぽうウェイドの大物感もすごいのだ。人間の厚みや教養、冷酷さや暴力性など文句なしに説得力がある。役者の力も相当あるんだろうとは思うけれど(ラッセル・クロウがスターでいる理由が分かるような気がした)撮りかたもあるんだろうと思う。この映画、さっき書いたみたいに銃撃戦による人の死はあまり深刻に描かない。ところが2人だけ銃を使わずに殺される人物がいる。2人ともウェイドの護送担当で、逆鱗にふれてウェイド自身の手で殺されるのだ。この2つの殺人だけは少しリアルに、観客をぎょっとさせるように描かれる。突然の残虐性を強調することで、教養人でひょっとするといい人かも?と思わせたウェイドの多面性がまして見えるのだ。
オリジナル(1957)。
対立のなかで、ライバルの間に芽生える友情。こういう物語はつねに疑似恋愛的な香りをかもしだすようになる。というかそういう例えができてしまうということだけどね。でも仕方がない。ウェイドの忠実な部下、チャーリー(ベン・フォスター)がその図式を否定できない濃いものにしてしまう。チャーリーはどうみても、ウェイドに服従以上の忠誠心を持っていて、護送されるボスを追い続ける。頭が切れ残虐で銃もうまい。それでいてどこかなよっとしている。印象に残るキャラクターだ。ファーストショットで違和感を感じるくらい、東部っぽい赤毛の非マッチョな雰囲気で、しかも今風の細身でウエストを絞ったジャケットを着ていて、ぼくの勘違いでなければ、演出はこの役にゲイ的な雰囲気を濃厚にまとわせている。自分が慕う男が敵に心を引かれていき、彼はますます敵(ダン)に敵意をつのらせる。ラストは脇役の悲しい宿命そのままに彼の「失恋」「悲恋」で終わる。とはいってもその演出は、気持ちに気づいているボスの誠意みたいなところも少し表現している。 ゴミのように捨てられるわけじゃないのだ。 見ればわかるけれど、チャーリーのラストシーンはひょっとして彼の願望の実現化じゃないかとさえ思わせるのだ。面白いのは序盤でウェイドがバーの美人ホステスを気に入るシーンがある。ここではチャーリーはすぐに気をきかせて「先に行ってる」とあっさりいうのだ。「追っ手が来るからそんなことしてる場合じゃ・・・」みたいなこともない。まあこじつけですけどね・・・
監督のジェームス・マンゴールドの作品、このブログだと『17才のカルテ』がそうだ。ずいぶん毛色の違う映画だ。佳作だった。でも共通点はちょっと思いつかないな。ちなみにウェイド役にはトム・クルーズの名前もあがっていて交渉していたという。嫌いというわけじゃないんだがトムじゃなくて大正解だと思う。ダン役ならわかるけどね。