ピアノマンと派手な衣装と(その2 恋するリベラーチェ)

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<予告編>

ストーリー:1970年代末期、ラスベガス。リベラーチェ(マイケル・ダグラス)は最高のギャラを取るエンターティナーだった。獣医師を目指すスコット・ソーソン(マット・デイモン)は友人とライブを見に行き、彼に紹介される。一目でスコットを気に入ったリベラーチェは豪邸に招待、そのまま付き人兼愛人として彼を住まわせるようになる。常人と違う美意識とライフスタイルにとまどうスコットだったが…

リベラーチェ。1919年生まれのピアニストだ。クラブやステージでピアノを弾いていたかれは、1950年代にはアメリカで最上級に稼ぐスターだった。売りは、スタンダードやクラシックをきらきらのアレンジで弾くパフォーマンスと軽妙なトークだ。それにスパンコール満載のステージ衣装や、ステージ上に車を持ち込んだり、フライングをキメるケレン味たっぷりの演出。1つ前の記事で書いたエルトン・ジョンのド派手衣装とスペクタクルなステージは、リベラーチェの影響もあった。エルヴィス・プレスリーも影響されていたと言われる。

 

彼はゲイだった。時代が時代だから、一生公表しなかったし、マスコミで騒がれたときは裁判で対抗し、女性を恋愛対象として語ってみせていた。もちろん愛人はいた。かれの豪邸にはホットパンツをはいた男がアシスタントとして住み込んでいたし、弟子も元はお気に入りだった。映画によるとね。

スコット・ソーソンはリベラーチェ晩年の愛人だ。実物はこんな感じ。出会った頃、リベラーチェ60歳、スコットはなんと17歳だ。少年じゃん!どう見ても美少年という感じじゃない彼は、リベラーチェの美学に合わせて衣装を与えられ、キラキラのアクセサリーを贈られ、やがて彼好みに整形させられて、ダイエットし、あごと鼻がとがった青年になる。

ベッドで、ダイニングで愛し合う2人を冷ややかに見ていた男たちはいつのまにか豪邸から姿を消し、すべてを飲込んだマネージャーはだまって受け入れる。スコットはリベラーチェの豪華な車を運転し、ステージ上まで送り出す役もつとめるようになる。

物語は、出会い、「囲われた」日常のストレスからくるぎくしゃくした日々、薬物依存も込みで精神のバランスを崩していくスコット、そして破局…という、実話に沿って進む。最後はお金を巡る裁判沙汰になる。典型的なお金持ちと若い愛人の物語、『プリティー・ウーマン』型のピュグマリオン系でもある。

本作はスコットの自伝をもとに、2013年スティーブン・ソダーバーグ監督でTV用に制作・放映された。ゲイの物語にハリウッドは乗らなかった。カンヌに出品され、アメリカ以外では劇場公開されている。この辺、リベラーチェの苦悩は続いているのだ。本作、ぱっと見は、きらびやかで大多数には物珍しい、リッチなゲイの生活とラブシーンが目につくけれど、お話としては孤独な2人の、年齢差をこえた愛の行く末を描いている。

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リベラーチェ役のマイケル・ダグラスは独特な喋り方と粘っこい視線で本人になり切る。ショーでの振るまいも完璧にさまになっている。老エンターティナー的な哀愁もときに漂う。そしてスコット役のマット・デイモン。撮影時に40すぎの彼が10代のボーイ役というのもすごいけれど、さすがに10代は無理にしても純朴な青年には十分見える。顔はもっさり、体は太めマッチョで、長い金髪。いかにもポルノに出てきそうな雰囲気に仕上げてくる。

本作、メーキャップアーチストの矢田弘がエミー賞を受賞した。リベラーチェもスコットも、整形して若返ったり、逆に老け込んだり、とにかく外見の変化が激しいんだけど、無理なく見せているのは彼の功績なんだろう。マットの若作りも、今みたいにCGで変えるんじゃなく特殊メイクかもしれない。役者の力もあって、2人ともなぜか滑稽にはみえない。

それにしても、リベラーチェとエルトン・ジョンに共通する、派手できらびやかで、過剰でどこかユーモラスな感覚=キャンプ、あれはなんなんだろう。ドラァグクイーンが代表だというけれど、リオのカーニバル(男女の祭典感が強い)の衣装は見た目の派手さ、キッチュさもどこか似ている。

 

…リベラーチェは1987年に68歳で死亡した。死因はAIDS、当時はまだ治療法が確立していない死病だった。スコットは著書の映画化で10万ドル手にするけれど、すぐに使い果たし、翌年には薬物常習で逮捕される。2人を手術した整形医(ロブ・ロウが特殊メイクで怪演)も1985年に自死してしまった。

■写真は予告編からの引用

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