タイムループ3本その1 恋はデジャ・ブ

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ストーリー:お天気キャスターのフィル(ビル・マーレイ)は大してメジャーでもないのにスターぶっている男。ある街の年中行事の取材にブーブー言いながら出張だ。仕事を終え、帰ろうとすると吹雪で道路が封鎖になり、仕方なくもう1泊する。朝6時、目が覚めて外に出ると、どういうわけか世間は昨日とまったく同じ。そう、彼はタイムループの世界に閉じ込められてしまったのだ....

1993年公開。監督は1984年のヒット作『ゴーストバスターズ』のハロルド・ライミス。本作、なかなかの名作扱いだ。『ナイトオブザリビングデッド』がゾンビもののテンプレートを確立したみたいに、本作は近年のタイムループものの元祖かつ基本になっている。大体こんなフォーマットだ。

①主人公は1日単位で繰り返される世界に閉じ込められる。

②主人公が寝るか死ぬか、意識を失って目覚めると全てリセットされて、同じ朝が来る。

③ループの中で身体は年を取らない。でも記憶は積み重なる。だから今日を初めて体験する人と比べるとどこか世の中を見通している感じになっていく。

④主人公は初めはろくでもない人物だけど、段々と自分を見つめ直して成長していく。

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イムループの世界は人生の「あそこ、やり直せれば...!」という願望をミニマルな形でかなえる。今日が明日を制約し、どうしようもなく未来へ突き進んでしまうこの世界からの離脱、という願望の実現化でもある。でも、そういう因果律からの解放はけっきょく生きる意味を失わせる牢獄なんだ、という教訓めいた語りにもなる。

本作もそのフォロワー作も、全般にポジティブな物語だ。人生何度でもやり直せる、という感じ、繰り返される毎日を精一杯生きる大切さ、何をやっても無意味に見える世界の中で生きる意味を考え始め成長していく姿....いい話にしやすい。本人の記憶はリセットされず積み重なる、というところがキモだ。毎日は繰り返しでも成長することができる。

本作は元々ロマンチックコメディーとして構想されたのもあって、タイムループに陥る理由とかメカニズムは全く追求されない。とにかくフィルはループにはまり込み、詳しくは描かれないけれど、少なくとも十年分は続いている。そんな世界の中でのフィルの気持ちの持ちようと、ヒロインへの思いがお話のメインだ。

フィルは最初のパニックから立ち直ると、毎日リセットされるのに目をつけてやりたい放題し始める。ヒロインへの想いが高まってうまくやろうと無限のリテイクを繰り返す。しかしやがて絶望が訪れて死んでループを終わりにしようとしてもダメで、いよいよ本格的に抑うつ状態になる。そして....

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繰り返しを印象付けるために何度も目覚めのシーンが繰り返される。後半に来ると毎回朝からはじめないで、同じシーンの微妙に変わったバージョンがいくつも続く。見てると不思議な感覚になる。タイムループを描いているんだけど、それ以前にこれって映画の作られ方そのものじゃない?

俳優たちは同じカメラセッティングで同じセリフを同じ表情で繰り返し、ある部分だけちょっと変えてリテイクする。普通の映画撮影でやってることだ。デヴィッド・フィンチャーみたいに100回繰り返す現場だってある。繰り返しのシーンは付録映像によくある「未使用テイク」集に見えてくる。逆に同じテイクを使い回して、同じことが繰り返されていることも、あるいは同じような日々が続いていることも表現できる。

一発撮りのドキュメンタリックな作品でもない限り、ベストのテイクを求めて何度もやり直し、編集によって自由に時間を操作し、物語に仕立て上げる映画の制作は、どこかループする日常や多元宇宙に似ているのだ。だからけっこう相性がいいのかも知れない。

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主演のビル・マーレイの役はトム・ハンクスも候補に上がっていたそうだ。でも「ちょっと良い感じすぎる」からやめになった。分からないでもない。ビルの序盤の嫌な感じ、やる気のない感じはいい人化した後半よりぴったりくる。ヒロインはアンディ・マクダウェル。誠実そのものの雰囲気が主人公の成長のモチベーションになる役によく合う。

舞台になったのはPunxsutawney(パンクサトウニー)という読みにくい名前のペンシルバニア州の町。先住民の言葉が地名の元らしい。本作の原題『Groundhog day』というお祭りで有名だ。土着のマーモット(巨大なリス科動物)に春の訪れを占わせるのだ。

映画にもこのグラウンドホッグ(マーモット)は出てくる。リス科と行っても可愛いタイプじゃない。撮影中ビル・マーレイは手をひどく噛まれて病院行きになったという。ちなみにロケは別の街、イリノイ州ウッドストックという街で撮っている。映画は町おこし的なことになったらしく、映画にちなんだスポットが残っていたりするらしい。 

本作は最初に書いたみたいに、基本はタイムループというギミックのあるロマンティックコメディだ。 ただ見終わった感触で言うとディケンズの古典『クリスマス・キャロル』を思い出さずに入られない。キャロルでは3人の幽霊に連れられて過去・現在・未来を見尽くした主人公の代わりに、本作の主人公はある1日をサンプルに人生のあらゆる可能性を見て、ようやくいいひとになろうとする。多分同じこと感じる人多いだろう。

■写真は予告編からの引用

 

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