タイムループ3本その2・3 パーム・スプリングス&ハッピー・デス・デイ

■パーム・スプリングス

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ストーリーカリフォルニア州パームスプリングス。ナイルズ(アンディ・サムバーグ)はガールフレンドが司会する結婚式に出ている。知り合いでもないのにマイクを奪ってちょっといい話をしたり、新婦の姉に声をかけたり。初めは変な顔をしていた姉、サラ(クリスティン・ミリオティ)もだんだん意気投合して2人で式場を抜け出し、いい感じになったところでアクシデントに見舞われる。それが2人のタイムループへの入り口だった.....

イムループものの最新バージョン。制作費5億くらいのコンパクトな作品だけどなかなかのヒットだ。まあタイミングもあるんだろう。新作大作映画が止まった2020年の公開だ。基本的にはタイムループラブロマンス、『恋はデジャ・ブ』と同類の定番ジャンルだ。違うのはカップルが2人ともループの世界にいること。

上のストーリーではちゃんと書いていないけれど、アクシデントでタイムループに放り込まれたのはサラ1人、ナイルズは話が始まるだいぶ前からループの世界の中で暮らしている。しかももう1人、ナイルズの巻き添えになってループの世界に閉じ込められたロイ(J・K・シモンズ)もいて、その恨みからナイルズをたびたび襲撃する。

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本作、『恋はデジャ・ブ』で書いたタイムループ4つのお約束をきっちり取り入れている。眠るか死ぬかすると翌朝同じ結婚式の当日に目覚める。死がものすごくカジュアルになるのがこの設定の特徴だ。そしてみんな繰り返しの記憶を蓄積していく。毎日は少しずつ違うバージョンになっている。

ただし主人公の成長というところはちょっと違って、ナイルズは基本的に成長しない。彼はあまりにも長い間ループの世界に生きてきて、お調子者の仙人のようになってしまい、完全に順応してしまったのだ。色々無茶は試してきたらしいけれど、もはや飄々とした存在だ。

だからストーリーを動かすのは新しくこの世界に入ったサラの方だ。サラは脱出を何度も試み、その一方でこの世界ならではの無茶も満喫する。最近の物語らしく、ヒロインのサラが一貫してアクティブで、ナイルズはサラへの思いもあってそれに付き合う。「毎日変化も展望もないけれど生活に苦労はないから」...という保守的な男と、「こんな世界じゃ生きる意味があるの?」ともがく女の、つまりリアルワールドでもありそうな対比だ。

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イムループのメカニズムは一応説明される。詳しくは忘れてしまったけれど、量子力学的な、多元宇宙的な。後半、物語はそのメカニズムへの挑戦みたいな方向へ進みだす。多元宇宙=マルチバース、昨今映画界で氾濫している。MCUものはマルチバースを理由にいくらでも設定をリセットして新作を出してくる。『スパイダーバース』はともかく、他は物語上の必然はほとんどないんじゃない? ともかくこの概念、観客にも急速に馴染みが深まっている。昔はもうちょっと夢幻的・思索的SFのネタだった気もするけど....

物語は一貫して楽天的だ。主人公たちは不老不死で、いくら金を使っても翌朝には財布に戻ってるし、どんな失敗をしても(本人は覚えていても)引きずることもない。パラダイスなのは間違いないのだ。極楽だって変化のないタイムレスなものだろう。繰り返す日々を悲惨なものに変えれば一挙に地獄になる。のんびりした砂漠のリゾート地で、ハッピーな結婚式の日を繰り返せる彼らはタイムループの囚人の中ではかなりラッキーな方なのだ。ナイルズが順応するのも無理はない。それでも生きる意味を求めて脱出しようとするサラ。

制作・主演のアンディ・サムバーグは『ブリグズビー・ベア』の制作チームにも入っている。なんとなく西海岸の砂漠の景色が似ている。とはいっても『ブリグズビー』はユタ州、本作はカリフォルニアだ。それにしても『サタデイ・ナイト・ライブ』出身者が絡む良作は『ブルース・ブラザース』の昔から連綿とある。吉本どころじゃない。日本にいるとピンとこないけど、単なるお笑い番組というより一種のプラットフォーム的存在になっているのかもしれない。

 

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■ハッピー・デス・デー

ストーリー:女子寮で暮らす女子大生のトゥリーは今日が誕生日。昨夜初めて飲んだ大学生カーターのベッドで目が覚めた。性格の悪さが売りの彼女は傍若無人に1日を過ごした後、マスクをつけた殺人鬼に殺される。目が覚めるとそこはカーターのベッド、誕生日の朝だった。ループするトゥリーの毎日が始まる....

イムループをこれまた定番ジャンルの「マスクを付けた殺人鬼と犠牲になるビッチなブロンド」ものと一体化した作品。好評だったらしく同じヒロインで次作も制作されている。本作ではヒロインが死ぬとリセットされる。目が覚めて、お泊まりした男子寮から出たヒロインはキャンパスを一回りして毎回同じ出来事にあう(で、少しずつ変わる)。そこから1日が始まる。彼女は毎回死ぬ運命で、脱出するためにはとにかく生き延びなければいけない。ループものとしてはなかなか大変だ。しかも記憶だけじゃなく殺される時のダメージも少しずつ蓄積されるらしいのだ。

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ヒロインは遊び人風だけどお間抜けというより気が強くて攻撃的で性格が悪い美人の設定だ。どちらかというとヒロインの敵役になりがちなキャラ。『ヤング≒アダルト』の主人公にちょっと似ている。もちろんこれは『恋はデジャ・ブ』の公式通り、最初は嫌な奴だった主人公がループを繰り返すうちに成長していくストーリーだからだ。

イムループでありつつスラッシャームービーでもあり、ヒロインは殺人鬼に対抗しなくちゃならないので、戦うタフな女性にも成長していく。この辺りも最近の映画らしい展開だ。スラッシャー部分は控えめ。決定的なシーンは映さないし、殺人鬼も血塗れが大好きというわけじゃなさそうだ。

ロケ地の綺麗な大学はニューオーリンズにあるLoyola Universityだ。

■写真は予告編からの引用

 

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