コロンバス

youtu.be

<公式>

ストーリー:アメリカ生まれの韓国人ジン(ジョン・チョー) は突然昏睡状態になった父の見舞いにソウルからコロンバスにやってきた。父は建築の研究者だった。コロンバスは近現代の名建築が街の至る所にある。そんな建築を愛するケイシー(ヘイリー・ルー・リチャードソン)と知り合いになったジンは彼女のお気に入りの建物を見に行く...

というわけで、『アフター・ヤン』公開に合わせてだろう、監督コゴナダの長編第1作が配信系で無料公開されてたのですばやく見た。生き方に迷い中の建築好き女子とおじさんの交流。『名建築で昼食を』みたいだ。じっさい、建物は美しく撮られ、2人の距離は淡々としたまま、外形は少し似ている。

www.tv-osaka.co.jp

なにかと小津が引き合いに出されるコゴナダだけど、本作は『アフター・ヤン』と比べてもよりストレートに小津らしさが見える。まず撮り方がわかりやすいオマージュだ。コゴナダ自身がビデオエッセイにまとめてる小津の特徴的なカット、パースが効いた細い通路の向こうを通行人が横切るカットは色んなところで繰り返される。それにカラー化以後の小津作品でお馴染みの赤い小物をアクセントカラーに使うのもあちこちのシーンで見られる。

youtu.be

建築物を歪みのないレンズで切り取ってシーンの間にインサートするのも小津映画のお約束。本作は建築物がモチーフだからカメラをあまり動かさずにベストの構図でじっくり撮る。水平・垂直ラインにまったく歪みがない、建築写真めいたビシッとした絵で徹底されている。だいたいいつも薄曇りで光のコントラストも弱く、建築のテクスチャーが邪魔されずに見られる。おなじ建物のおなじカットを何度か繰り返してインサートし、ループ感というか不思議なリズムを作る。

そして物語自体が小津作品めいている。初老の父と、なかなか結婚しようとしない娘、娘のことを思って嫁がせようと背中を押しつつも無事に娘が家を出るとこの上なく寂しそうな父の姿...という定型、本作は父と娘じゃないけれど、自分を犠牲にして家に、生まれた街に縛られ続けようとするケイシーを、年上のジンがなんとか旅立たせようとする。結果的に家族が解体していく(離散していく)話なのもまあ共通と言えば小津映画のモチーフと共通だ。

もちろんパスティーシュじゃないから映画全体の印象は違う。ジンは父に、ケイシーは母に、それぞれに傷つけられてきたし、しこりになっている。淡々としているようで意外にエモーショナルな話なのだ。ケイシーの家は低所得者地区にあることが明らかで、母は薬物中毒あがりで単純労働くらいしか働き口がない。だから建築好きで本好きなケイシーはアカデミックな世界に遠い憧れだけあって踏み込むことを恐れている、そんなプアホワイトの切実さもけっこうストレートに描いている。

https://ih1.redbubble.net/image.1150757943.1868/flat,750x,075,f-pad,750x1000,f8f8f8.jpg

(c)2016 Jin and Casey Llc All rights reserved

主演の2人、ジョン・チョー笠智衆っぽさはなくて、シュッとした体型のおかげで、アジア系がしばしば陥ったステレオタイプと少し違ったたたずまいだ。ヘイリー・ルー・リチャードソンは『スウィート17モンスター』で主人公のお兄さんとできてしまうクラスメイト役。ずんぐりした庶民的な外見でありつつ、滋味溢れるなんともいい顔つきだ。

コロンバス。未踏の地だ。オハイオ州都のコロンバスは大都市だけどインディアナ州の本市は人口44,000人、ランニングで一週できてしまいそうな小さな街。愛知県のみよし市姉妹都市だ。建築が楽しめる街としてそもそも有名で、市ウェブサイトの建築ツアー紹介に出てくる有名どころを映画の2人も次々巡っていく。そういう意味ではハイブローすぎない、割と分かりやすい建築映画なのかもしれない。完璧なロケーションリストが市公式で出ている。

jiz-cranephile.hatenablog.com