ハスラーズ

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ストーリー:高級ストリップクラブの新人デスティニー(コンスタン・ウー)はトップダンサーのラモーナ(ジェニファー・ロペス)の妹分になり、苦しかった生活からやっと抜け出そうとしていた。そんな彼女たちを直撃した2008年のリーマン・ショック。再びどん底に落ちそうになったデスティニーにラモーナが声をかける。「経済危機の犯人のウォール街の連中から奪えばいい」ダンサー達は計画をスタートする....

2019年公開。監督ローレンス・スカファリア。実際のストリッパー達による詐欺事件のノンフィクションがベースの物語だ。制作体制を見るとメジャーではないんだけど、興行的には十分成功作だ。製作費の10倍くらい稼いでいる。

ざっくり言えば痛快犯罪モノで、能動的なキャラクターは全員女性。見る側からの雰囲気で言えば『オーシャンズ8』と似てる。ただし彼女たちほどゲーム的じゃないしそれぞれ特殊能力があるわけでもない。

詐欺事件というのは、ビジネスマンをターゲットに、女性たちが数人でそれとなく飲みに誘い、クラブに連れて行って泥酔させ、客のカードで超高額の支払いを勝手にしてしまう。本人認証のためのキーワードや支払い履歴は主にデスティニー(のモデルの人)が上手く聞き出していたらしい。そんなに出来のいい犯罪とも思えないけれど、しばらくは上手くいっていた。

物語の舞台になるストリップクラブはこんなところだろう。実話の彼女たちもこの店、’Larry  Flynt's Hustlers  Club’で働いていた。名前からして老舗なんだろうという気はする。場所的にいうと川沿いでマンハッタンの中心じゃないけれど車ならウォール街から20分くらいだ。映画の中では若いお金のありそうなサラリーマンが集まって、スターダンサーが出てくると紙幣が紙吹雪みたいに舞い散る。

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主人公たちのモデルはそれぞれいて、デスティニーのモデルはカンボジア系移民のRoselin Keo、ラモーナのモデルはSamantha Barbash。この辺で感じはつかめる。計画に絡むダンサーたち、それぞれに大変なのね...という事情が丁寧に描かれて、割とシンプルに彼女たちに思い入れられる作りになっている。

最初は紙幣をまき散らし、後半では金を騙し取られる金融ビジネスマンたち。彼らは全員大した人格はないただの「エロい客」「間抜けなスケベ男」でしかなくて、誰がだれかもよくわからない。被害者は「被害者」以上の人格は与えられていないから、無駄に同情する必要もない。

本作はme too以降の一連の「女性エンパワーメント映画」の一つに入れていいと思う。男の性的欲望に奉仕する業界の女性たちを主人公に持ってきて、そんな彼女たちが決して男や男的社会システムに媚びたり、押さえつけられたり、むしり取られるんじゃなく、逆に手玉にとって自分たちを幸せにしていく姿を見せる。女性たちだけの柔らかくてハッピーなパーティーの場面も何度も出てくる。

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キャストと映像のゴージャスさ、グラマラスさも本作をすごく見やすくしている。まずは誰もが称賛する大姐御、ジェニファー・ロペスだ。『オーシャンズエイト』ではサンドラ・ブロックケイト・ブランシェットが受け持っていた、セクシーで格好良くてそれでいて包容力もある、フィジカル的にもでかい姐さんだ。数ヶ月のトレーニングでゼロからマスターしたポールダンスもあいまって、店1番の売れっ子役にも納得感がある。

『クレイジーリッチ』では高学歴会社員を演じたコンスタン・ウーは妖艶なアジアン・ビューティー風と生活感あふれる東洋人を演じ分ける。それ以外のダンサーたちもいい。特に序盤のイケイケ時代のストリップクラブのダンサーたち。ありのままの丸々とした体型を誇示するリゾ、本人も元ストリッパーだったカーディ・Bなどの女性ラッパーたち、トランスジェンダーのトレイスとか、(僕はほとんど知らなかったけれど)よく知ってる人たちにとってはすごく面白いキャスティングだろう。

■写真は予告編からの引用