パラサイト 半地下の家族

 

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ストーリー:キム一家は父も母も失業中。流行のスイーツ屋に手を出して失敗したのだ。20歳くらいの息子も娘も大学に行けず、4人で宅配ピザの箱組み立ての内職生活。彼らの家はソウルではよくある半地下の狭い部屋だ。息子ギウがひょんなことから身分をいつわってIT富豪のパク家の家庭教師になる。キム一家は計画を立てた。それぞれ他人になりすましてパク家で働ければ.....

2019年の世界的な代表作の1本だ。『JOKER』とかと並んでね。日本でも十分にヒットしていて高評価はそこらじゅうで読める。しかも監督みずからネタバレしないようにお願いしているから、こんな片隅のブログでも言葉少なにならずにはいられない。見るのをお勧めしない理由を見つける方がたいへんなのだ。

監督ポン・ジュノはハリウッドでの製作から、母国での作品づくりに戻って撮りやすかったといっている。貧しい家庭・リッチな家庭の2つの家だけが舞台の、出演者もほとんど2家族(+α)だけの物語だ。でも印象はぜんぜんミニマルじゃないけどね。

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ポン・ジュノらしく、映画のなかで舞台となる空間の構成(特に高低差の関係)が明確にあらわれていて、家のなかの空間の上下、2つの家を結ぶ都市空間の上下がものすごくはっきりと見せられ、それが物語に直結している。

吠える犬は噛まない』でも空間の感覚ははっきりとあった。そういうタイプの映画作家なんだと思う。ぼくが空間への(特に高低差への)感覚をはっきりと感じる作り手はロマン・ポランスキー(たとえば『吸血鬼』)、あとはみなさんおなじみの宮崎駿もそうだ。『千と千尋の神隠し』を見れば、いや『カリオストロの城』を見ればわかるでしょう。本作とよくにた世界観がある。

リッチなパク家の住宅は映画用にデザインされたセットで、ストーリーテリングにあわせてデザインされたことがよくわかる、住宅としてもなかなか洗練されていて、世界中の観客に「今のリッチな人々」の感じを納得させられる空間になっている。ちょっとポランスキーゴーストライター』に出てくる豪邸別荘に似ている(これもセット)。庭だけが芝生の周りに刈り込んだ常緑樹が植えられて、東アジアの雰囲気をかもし出している。

主な舞台になる1階は水平に広がり、扉で仕切られず、流れるように人も視線も行き交うつくりだ。そこにかすかな高低差が仕込んであって、大きなテーブルがちょっとしたフロアのように同じ階の中の上下を分けている。2階は子供たちの部屋、家庭教師であるキム家のひとびとが、パク家の娘と息子を取り込んでいく場所。そして地下もある。下におりると食料品や道具をしまった倉庫めいた場所があるのだ。

映画のなかではこの、つながっていながらところどころの壁でそれとなく視線が仕切られた空間が、人々の距離感やちょっとしたサスペンスの道具としてうまく使われる。庭も大事な物語の舞台で、リビングと庭はほとんど視界を遮らないおおきな窓でつながっている。

パク家は建築家が自邸として建てた設定だ。リッチな住宅地はいつもそうだけれど、パク家も坂をのぼった高台にあって、玄関からさらに階段を登ると建物が見える。この家の住人が外界を見渡すときはいつも見下ろす視線になる。タワーマンションなんかじゃなくてもね。

パク家族は地下の倉庫までは降りない。そこに降りるのは家政婦や運転手だけだ。ある意味、地下空間はこの豪邸のなかの、別の世界の住人たちの場所なのだ。そして都市の中では彼らは高台からおおきく下った、ごちゃごちゃとした低地に住む。パク家の外部はこの辺でロケしたらしい。ちょっと違うけれど雰囲気はこんなかんじかな。

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お話はデフォルメされ、少々強引にストーリーは必要な地点まで進んでいく。さりげないエピソードで機微を描くような作品じゃない。ホームドラマのようでありながらサスペンスだしスペクタクルだし・・・なのだ。ただしラストはすこし親切に伝えすぎの感じもした。同じことをもっとさらっと描写する手もあっただろう。

役者もいい。キム家は兄妹もふくめていわゆる美男美女を配していないところがコメディ感をかもし出すのに寄与しているし、パク家は特に奥さんがいい。お人好しで、会話にちょいちょい英語を挟むけれど、たぶん留学経験はないのだ。ソン・ガンホは『タクシー運転手』に続けて(ぼくにとっては)、また運転席から人々にはたらきかける。

■シーン画像は予告編からの引用