ミア・ゴス トリロジー! MaXXXine & Pearl & X

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ストーリー:1985年、LA。『X』の惨劇を生き延びてポルノ女優になっていたマキシーン(ミア・ゴス)はハリウッド進出にトライし、ついに女性監督(エリザベス・デビッキ)のホラー映画で役を勝ちとる。撮影準備がはじまり憧れのスタジオに通う彼女を、過去の惨劇を知る探偵(ケヴィン・ベーコン)がつけ回すようになる。ちょうどLAでは連続殺人鬼ナイトストーカー事件が世間を騒がせていた。マキシーンに追手の手は伸びて....

タイ・ウエスト監督、トリロジーの完結編。本シリーズ、まずは過去の名作スラッシャームービーにいい感じにオマージュを捧げてちゃんと振り切った描写を入れ、シネフィル=嫌味なインテリじゃないんだという男子的な「愛すべき映画バカ」マインドに心地よく受け入れられた。それでいて悲鳴をあげて逃げ回るだけじゃない、力強く戦って自分で道を切り開くヒロインがいる。

そこに田舎老人ホラーやポルノ映画産業モノ、あるいは過去の総天然色映画パスティーシュ、ハリウッドバビロン的なLAノワール風味など、映画ファンが感知する美味しい部分をプラスした。しかも3作を通じて映画産業をモチーフに、ヒロインがそこに希望を求めて精一杯手を伸ばす姿を共感たっぷりに描いて、「愛すべき映画バカ」限定じゃない広がりがある。

そんなシリーズの完結編は、思った以上にまとまったものになっていた。映像は血まみれで死体が続出するんだが、ストーリーは意外なくらいにポジティブで、まっすぐに解決に向かって進むし、ヒロインをめぐる登場人物は善人率が高いから、スリリングでありつつ妙にいい話を見ている感もあって、どこか奇妙な感覚におちいった。

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ポルノ業界からスターになった俳優は少ない。若い頃に際どい映画に出演したり(映画でもブルック・シールズの名前が出てきてた)マドンナやキャメロン・ディアスみたいにスポットでビデオ出演経験がある人は多いだろうけれど、ポルノ女優として一度キャリアができてしまうとそこから変身するのは大変だろう。日本でも若い頃の肌を見せる仕事からキャリアを築く人は多いけど、ガチのポルノ/AV女優からの転身は少ない。

本作ではそこの苦労は一切見せない。「ポルノ上がりが」みたいに見下す役者やスタッフは一人もいなくて、かわりにいるのはホラー映画を足がかりに映画界で生きていこうとする女性たち。超長身のデビッキが演じる女性監督はジャンル映画特有の「お約束さえ守れば自分の表現はわりと自由」(一時期のロマンポルノやエロ漫画雑誌と同じだ)という世界の中で、自分の爪痕を残すため妥協なく突き進む。絶叫役の女優も、VFXスタッフも。一癖あるエージェントは、すごい処理能力でヒロインのトラブル解決をサポートしてくれる。『パルプフィクション』の掃除屋以上だ。

そう、本作では「映画の世界」は純粋にヒロインの希望であり救いなのだ。そこに居場所を見つけさえすれば。そのかわり自由な映画を敵視する勢力がいる。「過激な表現」の排除を叫ぶ福音派的グループのデモが何度も映されるし、エンタメ業界が悪魔的な敵だと主張するTV伝道師もいる。悪役の探偵は映画の聖地であるスタジオに忍び込み、ヒロインを追い回す。

本作は、男性の作り手による、女性を抑圧してきた社会やエンタメ業界への反省でもある。最近増えた女性作家の高らかなアピールに呼応したそういう作品、ときどきある。『ラストナイト・イン・ソーホー』なんかが典型だ。どうしても良識的であろうとしてお行儀がよくなってしまうところがあるかもしれない。すぐ前に見ていた『サブスタンス』の突き抜けと比べたくなるところはあった。

ラストに近づくとどこか夢幻的なシーンになり、ヒロインの願望なのか未来なのか分からなくなってくるところもある。現実には彼女がサクセスできるかなんて分からない。でも彼女が自分を抑圧する奴を力ずくではねのけたのは確かなのだ。


🔹X

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『マキシーン』の10年くらい前のテキサスが舞台。マキシーンはポルノ映画の撮影隊と田舎の農場にやってくる。そこには見るからに不気味で、彼らを全く歓迎していない老夫婦がいる。しかも近所の沼には巨大ワニがいる。

スラッシャームービーの舞台設定としては完璧だ。撮影隊には女優や若手スタッフ女子、若い監督とお調子者のプロデューサーがいて犠牲者も十分に用意される。あとはいつそれが始まるのか...という観客の期待を引っ張りつつ、意外に長く半分くらいまでは、妙に丁寧に撮影のディティールを描いたりしている。

本作は老人ホラーでもある。スラッシャームービーの典型だと「都会の調子こいた若者(しかも性的にオープン)がある種の懲罰的ニュアンス込みで殺られる」パターンだけど、老人ホラーだと視点は被害者寄りで、田舎の老人という異文化への恐れとある種の老人嫌悪がセットになった感覚のエンタメ化だろう。本作の老人夫婦の、出だしから異様に不気味なメイクもそのセンスだ。ただ、ひたすらに異形の敵として描くんじゃなくて、途中に不気味かつ哀しみに満ちたシーンがあったり夫婦はいたわりあったり、よりそった視点がある。


🔹Pearl パール

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『X』での老人夫婦への視点の答えは本作にあった。事件の60年前、『X』の舞台になった廃屋寸前の田舎家はこ綺麗な地方の一軒家で、女優・ダンサーになって地元脱出を夢見る若い頃の老婆パールと、車椅子で暮らす父と異様に厳格な母がいた。新婚の夫は第一次世界大戦に従軍してヨーロッパにいる。

若い女性が殺人鬼になる映画、当ブログでも意外になかった。実はヴァンパイアとかのモンスターだった、ならありそうだけど....『TITANE』『RAW』はその変奏だろう。本作のヒロインはある種のモンスター性はあるんだけど、それを上書きする感じで息の詰まる田舎と母の呪縛から逃げたい、スクリーンでしか見たことがないエンタメの世界に飛び込みたい、という普通の女性の気持ちが十分に共感できる形で描かれるから、観客はどうしたって突き放して見ることは出来ない。

スラッシャーの要素を十分に入れていてジャンル映画にはなるけれど、3作の中では普通のドラマとして胸にくる部分は一番ある。演技という点でのミア・ゴスの良さが味わえる作品でもある。ちなみに、途中で出てくるある料理の扱い、ポランスキーの『反発』っぽい。