王と鳥 〜「君たちはどう生きるか」の「お城」の原点?

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ストーリー:タキカルディ王国は地上297階にそびえる城砦国家。最上階は国王シャルル5+3+8=16世の秘密の部屋。王は飾ってある絵画の羊飼いの娘に恋している。けれど娘はもう一つの絵の煙突掃除の若者と相思相愛だ。王に狩猟で家族を殺された大きな鳥は彼を憎みながら、城の最上部に住んでいる。ある夜、羊飼いの娘と若者が絵を抜け出し、部屋を脱出する。嫉妬に駆られた王は2人の捕獲を命ずる....

1952年に公開された『やぶにらみの暴君』を監督ポール・グリモーが1979年に改作。オリジナルは評価が高く、日本でも公開されて、高畑勲宮崎駿も影響を受けた作品だ。本作は2006年にスタジオジブリがからんで公開、ジブリの公式サイトの中で高畑や宮崎がコメントしている。じつは前回のエントリーで「宮崎の突出した空間感覚」みたいに書いていた、その源流が思いっきり本作だったのだ。

ちなみに元の作品は見づらいけれど、ニコニコにあった。ラストが明白に違うみたいだ。

本作は昔風の王国が舞台、登場人物の服装は19世紀後半くらいの感じで、しゃべる鳥が主要キャラクターでもある寓話だ。同時に城はありえない超高層で、最上階までは電動らしいエレベーターがあり、王の玉座リニアモーターみたいに滑らかに自走するし、王のスイッチ1つでフロアの落とし穴が開いて気に入らない相手はどこかへ落ちていく。そして操縦式の巨大ロボットすらあらわれる。そんなSFファンタジーでもある。アニメの巨大ロボットの初出だそうだ。

舞台の城の構成がまさに『カリオストロ』。最上階に幽閉されたヒロインを助け出すルパンは本作の鳥や煙突掃除の若者だ。じっさい『カリオストロ』で見覚えがある、だれかを助けるために、急な屋根を伝ってそろそろと移動するシーンもある。シーン単体もともかく、堅固で実在感がある空間を設定して、シーンごとの適当な背景じゃなく設定にあわせた空間の中で人物を動かす、そういう作り方にインパクトがあったんだろう。

背景の空間のデザインはとてもどっしりとしていて、歴史的な構造や装飾があるところはそれも嘘くさくなく、それでいてファンタジックな空間は観客のイメージを解放するような空と一体になった見せ方で、昔のアニメらしく人物が割とちまちま動くのもあって、空間がいっぽうの主人公みたいに見える。『君たちはどう生きるか』後半の城は、鳥の登場や『カリオストロ』よりファンタジックになったのもあって、むしろ分かりやすく似ていると言っていいかもしれない。

もちろん、本作だけがインスピレーションのもと、というわけじゃなくて、もっとさかのぼれば1927年のクラシック『メトロポリス』だって(あれは未来都市だが)、高層建築があり、地下は虐げられた労働者の空間だった。空間の上下が社会階層の上下そのままになっている本作のシンボル性は実写の映画でもところどころに出てくるように思う。ポン・ジュノ『パラサイト』は1つの建築の中でも、都市の高低差の中でも使われていた。彼の初期の作品『吠える犬は噛まない』も、高層マンションの空間性にどことなく現れていた。

アニメ自体は、キャラクターデザインや動きはアメリカのカートゥーンの影響も感じつつ、王様のデザインなど実に独特だ。あと王国の部下たちが大量の丸々としたおじさんたちなのだが、これも描き分けに味がある。物語の中心になる若いカップルは頭身が高めでデフォルメが少ない。周りと比べると明らかに異質だけど、羊飼いの娘なんて全体のシルエットもリアルで、また妙に魅力的だ。

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