ホイットニー〜オールウェイズ・ラブ・ユー〜

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ホイットニー・ヒューストン。彼女の最盛期は1980年代後半から1990年代初頭、だから渋谷の映画館で見たときは50くらいのお客さんが多かった。らしいなと思ったのはちょっとエッジーなお母さんが20歳くらいの娘さんを連れて見に来てるのが何組かいたこと。ママが好きだった、死んじゃってとっても悲しかったホイットニーを娘にも見せたいのだ。

本作は『JIMI 栄光への軌跡』みたいなドラマ仕立てじゃない。アーカイブ映像と関係者インタビューを編集したドキュメンタリーだ。構成は時間軸に忠実で、ホイットニーが生まれたころの映像からはじまり、彼女の成長に連れて話は進む。

彼女が生まれたのはニュージャージー州ニューアーク。1963年のことだ。マンハッタンから10kmちょっと、大港湾がある町だ。1967年、24人が死亡する大規模な黒人の暴動があった。『デトロイト』で描かれたデトロイト暴動と同じ年だ。中心部は荒廃し、市民の多くは郊外に移転した。

ホイットニーの家族も同じだ。ダウンタウンから20km弱のおだやかな住宅地イースト・オレンジに移住する。父は役人、母はプロのシンガーで、ひょろっとしたホイットニーは白人が多いカトリックの学校に入学する。日曜日は教会だ。毎週聖歌隊で歌う。なんとかいってもしっかりしたお母さんがいる中流の家庭だったんだと思う。ただ、母は現役時代はツアーで不在がち、母違いの兄貴やもう1人の兄貴、母以外にプロで活動していたシンガーのおばさんなど、とにかく色んな家族がいた。映画を見ているとその環境が彼女を作ったし、最後までそれがまとわりついたとも見える。

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母親に完璧に仕込まれた少女は、母親が用意した突然のステージで完璧な初ライブを見せる。すぐにはデビューできなかったけれど、美しい彼女はモデルとしてキャリアをスタートし、有名なレコードプロデューサー、クライブ・デービスに発見されて、1985年のデビューアルバムの大ヒットからは、当時の洋楽ファンならだいたい知っている栄光の日々がはじまる。

当時、ぼくはこの手の曲はべつに好きじゃなかった。声はのびやかで魅力的だったけど、自分の好みからすると朗々と歌い上げすぎてたし、メロディーやサウンドはキャッチーすぎたし、なんとなく雰囲気が健全すぎた。ホイットニーは育ちのいいお嬢さんイメージで売り出していて、全般に健全なイメージだったのだ。

映画は、そんなイメージがどうにも表面的だったことを暴いていく。そもそも少女ホイットニーは箱入りでもなかったのだ。悪い遊びなら手本になる兄貴たちがいる。それから親友のロビン・クロフォードという女の子もいつもそばにいる。デビュー当時からバックステージの映像を見ると彼らがいつも写っている。

妹が、友達が大メジャーになると、かれら、彼女らは〈ホイットニーの取り巻き〉が仕事になる。一族のホープ、ホイットニーはぶら下がる大量の身内をみんな背負っていかなきゃならないのだ。デビュー前に離婚していた親父もがっちりと食い込みマネジメントを仕切る。親父のジャケットはみるみるゴージャスになり珍妙なモールが付いたものになる。

セイム・オールド・ストーリー。どこでも聞く話だよね。

有名なスーパーボウルでの国歌斉唱パフォーマンス、それにケヴィン・コスナーと共演した『ボディーガード』。キスする2人の周りをカメラがぐるんぐるん回るラストシーン、ぼくも公開当時見に行った。そしてボビー・ブラウンとの結婚。

後半はヒット曲と同じくらい有名な転落と破滅だ。共依存めいた、ぼろぼろの夫婦関係。薬物依存。最悪の時期の映像なんて壮絶だ。細くても愛嬌があった彼女の顔はさらに肉が落ちて凶悪な目つきになる。もともとそんなに興味がなかったぼくは、ボビーとの結婚くらいは知っていたけれど、ヒット曲が減ると自然とよく知らない存在になっていった。

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監督は家族や親戚や友人や、それにもと夫のボビーにもインタビューする。「クスリの話なんかしたくない」、ボビーはそんな感じだ。インタビューの再構成はなかなか巧みで、同じ人の映像が何度も出てくるけれど、彼女の人生に合わせてそのイメージをかたどるようなコメントを少しずつ繋いでいく。そして最終盤にはミステリーの謎解きみたいに、いままで言われてなかったコメントをぶつけ、作り手なりに彼女の人生を縛りつづけた苦しみは「これだったんです」と提示してみせる。

ポップスターって、なんだろうね。マイケル・ジャクソンの苦しみとほんとによく似てる。彼女がもっとほどほどに幸福で、母親の才能を受け継いだだけだったら、同じようにポップスターになったんだろうか。いやその疑問は無意味か。たぶん全部セットなのだ。

 *画像は予告編からの引用

 

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