勝手にふるえてろ


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ストーリー:24歳の経理事務、ヨシカ(松岡 茉優)には高校時代から片思いの男性がいる。かれはイチ。もう1人、最近同僚に告白される。かれは二。絶滅動物が好きで、妄想癖があるヨシカの恋のゆくえは〜?
これ、名画座に見に行った。公開から半年くらい?最終回で安かったのもあるのか、劇場は8割くらいお客さんで埋まっていた。ぼくが見に行く映画は、ロードショーのシネコンでもわりとがらーんとしてることが多いのだ。チープな思い入れかもしれないが、名画座が繁盛しているのはなんだか嬉しくなる。女性客ももちろん多いけれど、ぼくみたいなおっさんも十分にいて、うしろのやや業界風おじさんは細かいギャグにかなりウケていた。
本作は、主人公ヨシカのセリフも振る舞いもキャラクターも(で、その痛さも)すごくリアルに感じられるか、松岡 茉優さんがすごくキュートに思えるか、だと入って来かたもそうとう違うだろう。結果的にぼくはそのどちらでもなかったから、「ノり切れなくてごめんね」感は少しあった。もちろん「分かるヤツだけ分かればいい」系の映画ではぜんぜんないし、テンポもよくて面白い。まさに名画座で手軽に楽しむ1本だった。ぼくにはね。

主人公の妄想や、心中を戯画化したファンタジックなシーンや、願望や、そんなのをお話の中の現実とわりとシームレスにミックスして見せる表現、いまではごく普通になっている。どのあたりからなのか…..『モテキ』あたりを思い出すんだけど。とにかく描き方としても、昔のドラマみたいに妄想部分は「ホワホワホワ….」と白いもやにつつまれたりは決してしないのだ。
本作もとくに前半はその語り口だ。ふつうの人たちの、心理描写中心になりそうな物語を、いまやこういう手法で描くんだよね。現実シーンとそんなに変わらない撮り方で、いわば主人公の「こうありたい」シーンが挟まれる。途中で客も主人公もわれに返る展開があって、「こうありたい」は「こうである」には決してならないことが突きつけられる。それがある意味クライマックスだし、たねあかしになる作りではあるけれど、作り手は、最初から観客をミスリードしようとしている感じでもない。なんとなく「ああ、ここは妄想というか、白日夢的ななにかだよね」と思える語り口だ。

なんとなく『パンズラビリンス』を思い出した。現実世界はけっして居心地よくない。むしろ苦しい。だから想像の中の別の世界が必要なんだ….そんなね。途中で何度かはさまれる不思議なシーンがある。職場の女子社員たちが畳敷きの薄暗い部屋でみんなで寝転がっているのだ。どうやら昼休みかなにかの休憩室らしい。こんな感じが現実にどこかにあったんだろうか。女性が、女性に囲まれている一種のやすらぎがそこにはただよっている気がした。