スウィート17モンスター

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ストーリー:ネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)は17歳。ちいさい頃から人付き合いが苦手で、そのくせかっとすると悪態がとまらない。イケメンマッチョで昔から要領がいい兄貴が大嫌い。学校ではたった1人の親友クリスタといつも一緒だ。ところがある日クリスタが兄貴と仲良くなってしまった。ネイディーンは完全に孤独。学校の話し相手は哀愁ただよう先生(ウッディ・ハレルソン)と地味なアジア系男子、アーウィンだけ.....

前回の『レディ・バード』とならぶ「痛い17才女子」モノ。どちらも女性監督の初作品(自作脚本)だ。たしかに今まで見てきた青春ものともちょっとちがう感触はあるんだよね。これと、日本の「痛い女子モノ」の佳作、『勝手にふるえてろ』(これも監督大九明子の脚本)をならべると、やっぱり、語り手=監督と、それを肉体化する主演女優の関係というか、感じるね。

この3作はどれもヒロインの女の子のかなり主観によった描写で物語がすすんでいく。彼女たちの思いが、あるいは思い違いが、あるいは妄想が、観客が見る世界だ。監督脚本の作品で、しかも2本は初監督作。すくなからず作り手の「自分」が主人公に濃く投影されてるんじゃないか、とやっぱり思う。でも受け止める3人、シアーシャ・ローナンヘイリー・スタインフェルド松岡茉優、みんな若手ながら名優だ。単に作り手の思いのよりましじゃないだろう。監督と主演女優で作り上げた3様の世界、見比べると色の違いがとても面白いです。

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 本作と『レディ・バード』の設定はけっこう似ている。1.家計はお母さんが1人で支えている 2.自分と兄貴がいる家族構成   3.心を許せるのはお父さんだけど無力  4.男子キャラは、あこがれのイケメンと心が通じ合う文化系男子の組み合わせ  5.どっちもバージン(物語開始時)。舞台も西海岸よりのほどよいスケールの都市(ただし本作のロケ地は主にバンクーバー付近)で、白人中心のコミュニティも似ている。心はひりひりと痛むけれど、彼女たちの境遇はそこそこにのどかなミドルクラスの平和な社会だ。

主人公ネイディーンはレディ・バードのような謎の気品もなくて、おどろくほどの等身大感をかもし出している。ヘイリー・スタインフェルドは『トゥルーグリット』の復讐少女役で子役デビューし、『はじまりのうた』では主人公の娘役だった。いまこうしてアップで見ると、じつに味のある顔だ。いわゆる美少女じゃない。しかもわりと大きく(173cm)どっしりした体つきだ。日本でいうと.....とたとえを考えていて、なぜか西田敏行の顔が浮かんだんだけど、それはたぶん半泣きの表情豊かな芝居がどこか似ているからだけど、さすがに属性が違いすぎるから、例としてはアレだ、『モラトリアムたま子』の前田敦子がちょっと近いかもしれない。

ファッションも絶妙ないけてなさを表現するために選び抜かれていて、ヒロインのアイコンとなっているブルー(に不思議な色がまじった)のスキージャケットがじつにいい。高校生らしくミニスカートがデフォルトだけれど、まったくセクシー方向のオーラは感じない。本人の頭の中は性的な妄想が(まだ現実味をおびないレベルで)渦巻いているんだけど、男の子たちから性的な視線を浴びせられるとまだ受け入れる準備ができていない。

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ネイディーンは母親や兄貴、先生にちょっとどうかというくらいの悪態をつき、兄貴とデキた友人には被害者意識丸出しで心を閉じてしまい、自分に気があるクラスメートには超失礼なふるまいで、逆に気に入ってるイケメンには完全に挙動不審なアプローチ。これ、まぁどうなんだろう、「観客のだれもに心当たりがある青春の不器用さ」的なものなのか、じぶんの心がけ次第で、快晴でさっと溶ける東京の雪みたいに解決するレベルのものなのか、ちょっと疑問はある(カウンセリング必要なレベルじゃないの?と見てて思った)。ただ、『世界にひとつのプレイブック』みたいに(これは治療してるレベル)、精神に問題かかえてる主人公をコメディタッチで明るく描くタイプのドラマはたしかにある。まぁ、応援歌ではあるんだよね。たいていの人が「自分はまだマシ」と思えるくらいの主人公、世界が全部敵だと思い込んでいる子を、思ってる以上にまわりが受け入れてくれてるんだよ、という話だから。

ピュアに青春ものだから、大人は基本2人しかいない。お母さんは自分もふらふらしてる上に、どうもそんな高度な仕事をしている風でもない。娘の不安定に振り回されて自分も涙目でふて寝してしまうようなお母さんだ。それに対して物語全体の「大人」を引き受けるのが先生役のウディ・ハレルソン。『ナチュラルボーンキラーズ』は特別としても『ノーカントリー』でも殺し屋、『ステイ・フレンズ』では急に変わって派手目のゲイ同僚、『スリービルボード』では地元を締める警察署長。本作では威圧感もエキセントリックさもまったく出さず、友だちがいないネイディーンに懐かれすぎないように、それでも逃げ場になってあげるくらいの絶妙な距離をとる。大人たちのキャラクターにしっかりした厚みがあるおかげで、ぼくみたいな年代の観客は、大人側に寄せ見ても楽しめるようになっている。

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本作で面白いのは主人公の「となりの男の子」キャラはアジア系の少年だ。クラスでは目立たない方らしく、主人公にも「おじいさんみたい」と言われてしまう彼だけど、じつはリッチな家庭のボンボンで、中国系美男子にいる細面のシュッとした若者だ。『クレイジーリッチ』を思い出すバランスで今まではそうなかった配役だよね。本作は中国資本が入っていて、それがどう影響したのかは分からない。予告編を見てもらうと分かるけど、けっこう重要な役なのに彼の顔が一度も写っていないのが少し不思議だった(本国版もおなじ)。

■写真は予告編からの引用

 

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