アイアムアヒーロー


<予告編>
ストーリー:芽が出ない漫画家、英雄。アシスタント稼業でなんとか日々の銭をかせぐけれど、才能がある同期は確実に売れていくし、同棲中の彼女は、英雄の希望の見えなさに耐えられなくなりかかっている。そんなある日、家にもどろうとした英雄の前で彼女が怪物化した。いや彼女だけじゃなかった。周り中の人間がZQNという意識のない怪物に変化する。富士山麓まで逃げ延びた英雄と女子校生比呂美はアウトレットモールに到達する……
勢いありますね。全体に。原作でいえば序盤の御殿場アウトレットまでの話で(といってもそこまでしか読んでない)、物語的にはなにもオチがついてない。その段階だから主人公たちはみんな生きてるし、かといって希望が見えてるわけじゃないし。でも十分に面白い。原作自体そうだ。オチなんか見えなくても途中が面白くなくちゃ生き残れない、週刊の連載漫画だからね。「大丈夫か大丈夫かうわあああああ」→「ふーっ…..」のくり返しで、パートパートがいかに新鮮かの話だし、原作はすでにその部分で十分すぎるくらい映像的な魅力がある。

ぼくはゾンビマスターじゃないから、あのゾンビ、このゾンビみたいにいろいろ引き合いにだすほど詳しくない。とりあえず『ショーン・オブ・ザ・デッド』は前に紹介してた。あれも、ゲームおたくのさえない男たちがいやおうなく駆け回る話で、ロンドン周辺のベッドタウンのゆるい日常が味わいになっていた。本作は漫画家の芽が出ない辛さが原作同様けっこうなパートを占めるわけだけど、漫画連載時に花沢健吾が意図したみたいな「ふーん、さえない漫画家の日常モノかぁ」と思わせて単行本1巻分ひっぱったところで急転直下…..という効果は、映画の場合はムリだね。でも漫画家アシスタント、という暴力性とおよそ反対側イメージがある男が後半では的確に銃を連射して、というギャップの気持ちよさはまちがいなくあるだろう。
さてこの映画、そんなこんなで映像的な面白さで引っぱっていく映画だ。そのあたりの抜けの良さの理由のひとつは国内を出て、韓国でロケし、VFXスタッフとも組んだところだろう。このサイトは現場のディティールがくわしくて本作関連の記事のなかでは一番面白い。影の主人公、頭がへこんだ高跳び選手系ZQNの作り方も載っている。カーアクションも爆破も、韓国の規制のゆるさが思い切りのいい映像の一因なんだね。営業停止したモールがちょうど撮影に使えたというのもいい。


ちいさな不満。銃を撃つ英雄の感じ、映画だとちょっと熱すぎた。原作だと最初の一発を撃つときに、それまでの葛藤が消えて落ち着いた顔で「はーい」といって撃抜くのだ。そこが格好よさのツボじゃない?主人公はヒーロー性はぜんぜんないものの、趣味のクレイ射撃ではトレーニングを積んできてるわけだ。このパニック状態で熱いヒーローになるわけじゃないが、日頃のトレーニングが甦ってきて、覚醒した状態でつぎつぎ撃倒していく…….こんな感じが本作っぽいヒーロー像としちゃ好きだな。それはそうと大泉洋が原作主人公になりきっていたのにはおどろいた。地顔はちがう気がするが…..。あとあれだ、比呂美役の有村架純はなんだかきれいに撮られ過ぎな気がした。そもそもそこまでお姫様な人でもないのに、なんかへんだ。アウトレットグループのリーダー、伊浦役のひとは、オーバーオールをはいてるガキっぽさが抜けない青年なのに、異様に胸板が厚いのが気になった。