ショート・ピース

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全体コンセプトがやっぱりどうなのかと。「日本」て。そら日本でしょう。じゃあ日本を見せたいのか、日本に向き合いたいのか、昔の日本だと日本ぽいのか。あとづけのコンセプトぽいからしょうがないだろうけど、つけるなら煮詰めようよ。このオムニバス、ストーリーで何か伝えるウェルメイドな短編というよりは、設定一発で表現のいろいろを見せようよというショーケース的な映画だ。だけどショーケースとしても不満が残るのだ。


■九十九  江戸時代っぽいひとりの旅人の一夜の怪奇「MOTTAINAI」体験だ。傘や反物や器みたいな和のデザイン+アニメ表現が見せ方のコンセプト。ストーリーもテーマも短編らしくすごくシンプルだ。フジのノイタミナで放送していた『モノノ怪』を思い出した。日本的な文様や色彩を、小道具というより画面の構成要素そのものとして扱う感じがね。ただこっちのほうが王道アニメの香りが濃くて、はっきりいえばそのぶんつまんないなと思った。なんと言っても主人公の男の造形が残念過ぎ。マンガの記号的表現というか……。
王道マンガ表現と融合して、全体のトーンをマニアックに攻めすぎるんじゃなく「ふつう側」に引っぱる方針なのかもしれないけど、さっき書いたみたいなショーケース的興味で見ると、もっと色々試してみて欲しいわけだ。なにもそっちに回帰しなくても。正直顔が出た瞬間テンションがさがった。


火要鎮  オープニング、アクソメ風俯瞰の中で微妙にパースがききつつ、だんだんクローズアップになるシークエンス。それからクライマックスの、火事が起きて火消しが走る集団動画シーン。この二つがハイライトだ。江戸の火消しのやり方、つまりできるだけ早く建物を引き倒して延焼を防ぐ、というシステマティックな破壊の執拗な描写がいい。人物表現は浮世絵じゃなく、近代日本画のあまりデフォルメしない端正な線の人物画スタイルだ。鏑木清方とかか(公式サイトには小村雪岱上村松園の名前が出てる)。
その手の絵って、だいたい人物のキャラクターには個性らしい個性はないんだよね。本編でもそうだ。ヒロインもその恋人も端正だけどくせがない。ここでは登場人物のキャラはそんな大事じゃない(映画自体スペクタクルを見せるのが目的だ)から、絵の世界を邪魔しない人物でいいのだ。短編だからできた割り切りだろうと思う。まあ、あれだよね。主役の大友チームが日本画のアニメ化を正面からやってしまった以上、他の監督が手法的にかぶるような、日本画風クオリティ表現に行けないのは無理もない。『九十九』や『GAMBO』はそこで苦労したのかもしれない。


■GAMBO  とはいってもやっぱりよくわからない。シロクマと鬼がバトルするのはそういう話なんだからいいとして、やっぱり絵だ。キャラクターデザインは貞本義行。侍がビジュアル系青年で、ヒロインが多少抑えてるもののベタなロリ系美少女。美少女出すなら常套句的表現じゃないとこで描いてみてよと言いたくなる。村の古老もありがち過ぎて、いつものアニメを見てる気分になってしまった。なんかさ、それならそれでいくらでもあるし。
あと村の空間描写が省略されすぎなのだ。日本ぽさって、里から里山、奥山へという空間の変化に如実に出るはずで、そこがまったくなくて、あんまり考証もしてなさそうな里の家から、いきなりシロクマが住む抽象的な自然にジャンプしてしまっている風景全体にリアリティがなさすぎる。そこが適当なのはけっこうでかいよ。だってクマと鬼がそもそも荒唐無稽なんだから、せめて舞台は地に足着いてないと……無国籍な舞台を適当に描いていたお手軽アニメの伝統を「これも日本スけど」といって見せてるのかひょっとして。


武器よさらば  『ベクシル』みたいなセルアニメ的線画で表現した3DCG(だと思う)。とくに車輌表現が格好いい。押井守は『パトレイバー』の映画の時代にこれをやりたかっただろう。画力の限界なのか車両や兵器の正面や真横ショットがやたら多かったあの映画でね。キャラクターは完全に大友フェイスである。
画面の情報量が多くて、単純に見ててたのしい。でも同時に全体でいえばバランスを崩している一本。まがりなりにも他の3本はにほん昔話をやってるのにこれだけ未来ものSFって。的つっこみは入るだろう。コンセプトにあわせてラストで富士山を見せて、最初の話と円環構造風にしているけど、そもそも最初の話も富士山麓である必然が全くないんだから、こじつけにしか見えない。でもこのオムニバスの観客は大友の名前で来るから、かつての大友らしいSF+マニアックなミリタリー描写そのままのこの作品が一番効くだろうと思う。この皮肉。
■全体のさばきをどんな感じでやっていたのか知らないけれど、『九十九』や『GAMBO』は時代劇である必要もなかったんだから、『九十九』は明治時代くらいにしたり『GAMBO』も近代の凶作の東北地方とか、戦後のまだきなくさい時代の山奥の村、とか時代設定をもうすこし詰めれば『武器よさらば』もそこまで浮かずにすんだんじゃないか。結局大友克洋の香りが強い2作がほどほどに満足で、あとの2つはなんだか表現の面白さというほどのとこまでじゃないなというのが勝手な観客の感想だった。
■オープニング  だいたい導入がなんでまた美少女なんだよ。必然性のないところの美少女は声も含めてうざい。「異世界+美少女」って、まぁアリスとかあるけど、なにかっていえば美少女頼みをここでもやる必要あったのか。でもそこも含めて「これも日本スから」と胸張ってんだとしたらどうなんだろう。