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ストーリー:地方都市の高校生、研二(坂本慎太郎)、太田(前野朋哉)、朝倉(芹澤興人)の3人はヤンキーだ。研二はある日バンド結成を思いつく。バンド名は「古武術」。学校にあったドラムやベースでひたすら音を鳴らす。同じ学校のフォーク3人組「古美術」と仲良くなった研二たちは街の音楽フェスに出場することになる....

2020年公開。監督岩井澤健治がかなりの部分独力で7年間かけて完成したアニメーションだ。「最高すぎる」声は公開時からあったけれど、確かに最高すぎた。原作は大橋裕之の漫画『音楽と漫画』。

原作者には失礼だけど(試し読みしかしてないし)、プロットとしてはそんなに特殊でもない。「高校生バンドやろうぜモノ」だ。監督が「実写で撮ったらそんなに目立たなかった」と言ってるとおり、バンド青春ものはいくらでもある。『リンダ・リンダ・リンダ』『ソラニン』『日々ロック』....そのオフビート版になる。スキンヘッド高校生にわざとおっさん役者を当てて面白みを狙ったり。

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監督はそれをアニメーションとして完成させた。いわゆるアニメ好きが本作を見たらどう感じるだろう。高校生のバンドものアニメといえば少し前に『けいおん!』、高校生がジャズにはまる『坂道のアポロン』もあった。ああいうのと比べると本作の手触りはまったく違う。既存のアニメ業界から出てきていない、この手触りの違いと、それでもアニメーション独特の気持ち良さが、本作の魅力だろうと思う。

一見素朴な手書きアニメでありつつ、本作は実写的表現とのミックスだ。アニメと実写的表現のハイブリッドは珍しくない。日本アニメの多くが、画面の精緻さ方向に行くところが、本作では動きだ。人物の動きとカメラの動き。本作はロトスコープの手法で作っている。実写で人物を動かして撮り、それをトレースして作るアニメーションだ。僕はリチャード・リンクレイターの『ウェイキング・ライフ』を思い出す。これははっきり言って不気味だった。誰でも見慣れている(ある年代以上)のはA-haの『Take on Me』のMVだろう。

 

 

本作は上の2つとも違う独特の効果が出ている。キャラクターが超シンプルなのに動きがすごく自然なのだ。動画枚数も少ないから必要以上にリアルじゃない。でも歩いている時に体が左右に揺れる動きや、お互いの向き合い方、頭を動かすときの形、そんなのが自然で、冒頭から「あっこれはなんか違う」とすぐ分かる。音楽演奏シーンもそう。

日本のアニメは作画者がいかにいい演技を動画で作るか、を追求してきたところがある。リアル系で言えば思い浮かぶのは沖浦啓之とかだ。本作はそんな動画職人はいないけれどこの方式なら描ける。漫画家高野文子の名言「人体は、写実に描かないほうが話が良く動く」を思い出す。湯浅政明の初期の傑作『マインドゲーム』に寄せたコメントだ。本作がいい例だ。岩井澤監督が好きなアニメに『マインドゲーム』を挙げていてすごく納得した。

本作がすごいのは、人物だけじゃなく背景までロトスコープで描いているシーンがあることだ。カメラが移動撮影して人物を追い、背景が流れていくのを全部動画にしているのだ。これは「背景動画」といって猛烈に手間がかかる。3DCGで背景を作れる今ではそんなに特殊じゃないかもしれないけれど、例えば2016年の『百日紅』ではここぞというところで、監督入魂で手描き背景動画を使っていた。本作では動く背景は流石にシンプルな描線で、それでもダイナミズムは半端じゃない。走っているカメラのブレまで絵で再現されるのだ。

その代わりというわけじゃないが、本作は間のシーン、人物がアップで全く動かないシーンが結構ある。動かないどころかセリフもない。観客が落ち着かなくなるくらい引っ張る。動画枚数を節約しつつ、物語の緩急にもなる。

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キャラクターだけ見てると分からないけれど、本作は劇場みたいな大画面ならではの演出が時々入っている。広い背景の中で小さな人物の動きに集中させるみたいな絵作りだ。こういう時、普通のアニメだと人物も動きもかなり簡略化する。でも本作はアップから人物の解像度があまり下がらない。ロングでも細かく演技しているのだ。背景は水彩で、この絵もなんとも魅力的だ。

物語は、ある意味ファンタジックだ。3人はバンドやる癖に好きな曲、お手本にする曲がない。だから曲を演らない。ドラム+2ベース編成のミニマルミュージックを開始する。単一のビートにひたすら同じ音のベースが被る。歌もない。いきなりここに行き着く感性は、逆に相当いろんなものを通過していないとないはずだ。

そしてフェス。堂々たるステージングだ。ミニマルといいつつ8ビートの等間隔リズムをキープするのも簡単じゃない。あと研二の唐突なインプロビゼーションスキル...... とにかく最後まで「音楽を演れるようになる」プロセスはいっさい描かれないで、音楽を演るよろこびだけを描いている。

■画像は予告編からの引用

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