ショート・カッツ


amazon:ショート・カッツ-DVD-ロバート・アルトマン

おおむかしに映画館で見て以来、ひさしぶりにDVDを見る。
原作のカーヴァーの小説自体がそうなんだけど、「日常の裂け目」的に、ふつうに暮らしているはずのひとびとが、ぽこっと奇妙な世界におちいる感じがじつになかなかいい。監督のロバート・アルトマンは基本的に対象をちょっと引いた目で観察するみたいに描くタイプ(という印象)なので、この映画でも大量にでてくるキャラクターはみんなすこしシニカルに描かれている。原作とちょっとちがうのはもうすこし寒々しい生活をしてる(場所も暮らしぶりも)小説の世界にくらべて、映画の世界はあたたかいLAが舞台で、だいたいのキャラクターが、まあほどほどの暮らしをしている。すこし楽天的になり、ある意味話にひろがりが出ているかもしれない。

「クラッシュ」「マグノリア」「ラブ・アクチュアリー」と同じ、いわゆる群像劇で、いくつものエピソードがオムニバス的に同時並行で描かれる。もちろん定石として、あるエピソードの出演者がこっちのエピソードでは脇役になり・・・という絡みはいたるところにある。このスタイルの元祖はなんなんだろう? この絡みがふしぎな面白さをかもしだすんだね。こういうタイプの物語は時間が長くなると収拾がつかなくなるのか、だいたい短い期間を切り取って描くことが多いけれど、この映画でもファーストシーンの夜のヘリコプター映像(これがなかなか格好いいのだ)とラストのロサンゼルス大地震という、黙示録的な「おおきい」出来事で時間が切られ、そこにはさまれる短い日数の間に「ちいさな」出来事がおこる。
物語はどれもエロスにドライブされていて、それぞれのエピソードの女性たちが服を脱ぎ、ある女は水に浮き、ある女は夫と抱き合い、ある女は絵のヌードモデルになり、ある女は客に尻を見られ、ある女はテレフォンセックスを一日中し、またある女は下半身だけ露出してスカートにドライヤーをかける。けれど老監督はどれもロマンチックには描いてくれない。どっちかというと動物の生態を観察するみたいに、ひとびとがセックスにつきうごかされていろいろと妙な行動をしてしまうのを、これまた突き放して描いているイメージだ。だから日常生活で偶然裸の女を目にしてしまったような(そんなことないけど)、目の快感とちょっとした居心地の悪さ、それから裸とかエロスというものに漂うどことなく滑稽なかんじが同居した、映画ではちょっとめずらしいヌードシーンである。だいたい、わざわざ女優を脱がすんなら、できるだけ効果的に撮ろうとするでしょ?ふつうはさ。  4つのエピソードではエロスだけじゃなく「死」が突然に生活にわりこんでくる。どれもほんとうに突然に。すぐそこに、ふつうにあるんだよ、という感じだ。
俳優のなかでは変態臭をぷんぷんさせているロバート・ダウニーJr.と、かわいいヘタレの熊さん風キャラが衝撃の伏線になるクリス・ペン、ろくに他との絡みもなく生産性ゼロの作業に熱中するピーター・ギャラガーあたりが印象的。

結論。『善兵衛が満腹する厚みのあるオトナ系ドラマ!』