ブルージャスミン


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いかれかかった中年女を演じたケイト・ブランシェット第86回主演女優賞。
ケイト・ブランシェットって割と好きな女優さんだ。ジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』の一人二役ですげえな、と思ったし、当ブログだと『あるスキャンダルの覚書』『ライフ・アクアティック』とかね。お色気派じゃないけれどセクシーだ。あと『ホットファズ』にも一瞬出てる。
で、この映画ではゴージャスな中年女性のなんともいえない感じを出しつくしている。脚とかもちろんきれいなんだけど、それが微妙に見える。アレンの映画らしく、主人公はじゅうぶんにいやな女だ。悪気はないけれど相手を不快にさせる。すっかりおちぶれているくせに転がり込んだ義理の妹とそのなかまたちに「わるいけど、あなたたちとは違うから」感をひっきりなしに出し続ける。見栄で流れるように嘘をつく。そんな女だけど憎たらしくは描いていない。どこか愛嬌すらある。そのおおきな理由は彼女がだいぶ頭がわるいことだ。ゴージャスな容姿でそうは見えないけれど、じつは落語の与太郎なみに、実生活ではしょうしょうこまるレベルのアホさなのだ。「本当は落ちぶれてるくせにプライドが捨てられない高飛車な元美女」といえば『ヤング≒アダルト』のメイビスが名キャラクターだった。この映画のジャスミンは、痛いミニスカート姿とかは共通しているけれど、さらに頭が悪い。さすがにこれだと憎めない。これを知的な顔立ちのケイトが演じるところがまた悪ふざけっぽくなるのだ。

対比される義理の妹ジンジャーのバランスもアレンらしい。義理の姉を居候させて、恋人のインド系だかアラブ系の男の同居を延期する善人だけど、しょうもない男にすぐにひっかかってセックスに励んでしまう。気の毒な善人として容易に共感はさせないタイプで、ジャスミンとは違う意味でだいぶアホだ。男におきかえると、主人公とくされ縁のアホキャラ、アメリカだとチビデブのコメディアンがよくやるような役だろう。
ジャスミンにとってシンデレラの王子様になりそうだったやさ男の中年、どうみてもこいつが詐欺だろ、と思わせておいて……の展開なんだけど、ちなみに演じる役者は『17歳の肖像』で、それこそ詐欺まがいの色男を演じていたピーター・サースガード。この配役もあってよけいにうさんくさくく見えた。
この映画、ほぼ一文無しになって借金さえあるはずのジャスミンが(歯医者のバイトもすぐにやめてしまう)手持ちの服の着まわしとはいえ、いつもこぎれいなかっこうで、PC教室にも通い、ぜんぜんかつかつに見えないあたり「?」と思わせるところもある。境遇もメンタル的にもけっこうきつい状態の主人公(実在モデルもいる)を、リアルに描写しすぎないで、どこかフィクショナルな戯画として描くのは、いつものアレンらしいなとも思う。リアル感を出しすぎないのは、たとえばジャスミンが全編通していっさいものを食べないところにも現れてる気がする。それでいてラストはドキュメンタリックなまでに生々しい映像でしめてくるのだ。