ナイスガイズ 


<予告編>
ストーリー:失踪者探しメインで適当に仕事する探偵マーチ(ライアン・レイノルズ)、少女と遊ぶ男を脅して示談するヒーリー(ラッセル・クロウ)。もめごとでヒーリーに腕を折られたマーチはなぜか2人で失踪した女性探しに乗り出す。首を突っ込んでみるとそこはグラマラスで金と暴力が飛びかうおなじみの世界だった....

70年代のLA。日本ではその頃から(じつは米本国の支援も受けて)取り上げ始めたメディアの切り口もあって、日当たりがよくてだれもがジョギングシューズをはいてフリスビーをたしなむ健康的な街、という奇妙なイメージがしばらく続いた。
本作はそんなLAの別の魅力的な面が味わいの基調になってる。古くは『ロング・グッドバイ』、最近だと『インヒアレント・バイス』の世界だ。LAノワールのレイドバック版とでもいうのかな。映画的にも魅力的なんだろう。すごく近い世界に『ブギーナイツ』がある。豪邸パーティーの感じもよく似てる。
ただアレです、お話の重心は娘の小学生美少女。ルパン的なパパ(マーチ)も、暴力無骨おじさん(ヒーリー)も文句いえない。そこが本作のTVドラマ的親しみやすさでもある。親しみやすさのレベルで言うと『カリオストロ』に近いあたりだ。死人は出るが、主人公たちがラストまで無事だと確信しながら見れる。
ビューティフルデイ』もそうだったけど、『レオン』的なおっさんと美少女(子供)ものは根強いよね。アメリカ、ペドに厳格なのにこのジャンルはやけに多い気がするんだよなぁ.....

クボ 二本の弦の秘密 Kubo



<公式>
ストーリー:無双の武士だった父を失って母と2人岩場で暮らすクボ。彼は折り紙人形に命を吹き込むことができ、その技を使って街角で物語を聞かせて生活の足しにしていた。ある日、不吉な女妖魔に襲われたクボは強い霊力を持っていた母の力で違う世界に飛ばされる。その世界では母性あふれる猿と、奇妙に愛嬌のあるカブトムシ男と3人で霊力をもたらす宝を探して旅をする....

この作品は、なんというかあり方的に、けなす人が少ない感じの映画だ。ストップモーションアニメの製作スタジオ、スタジオライカの作品(『コララインとボタンの魔女』見た)。ファンタジックで壮麗な画面をCGじゃなく実物で撮り、とにかく超絶的に手がかかっていて、しかも作り手たちはじつに誠実に舞台になる日本の文化をリサーチしてキッチュにならないように作品に落としこむ。『犬が島』とおなじように作り手たちは日本の風景とクロサワへのリスペクトを口にする。
お話はシンプルで、主人公の少年が、父と母を思わせる道連れと冒険の旅をへて、困難や喪失を乗り越えて成長するわけだ。声をあてる猿のシャーリーズ・セロンもカブトムシのマシュー・マコノヒーもさすがビッグネームというか、軽妙さとヒロイックさの配分がとてもいいキャラクターになっている。
しかし子供向けファンタジーかと思ったお話はメタ的な構造になって、不思議な現実とのシームレスなつながりで終わっていく。ここの出口の作り方は面白い。ファンタジーなら観客を夢の世界で遊ばせるために黒子の姿も見せないという矜持だってあるわけだし.....自分の趣味から言えば『犬が島』の表現のほうがずっと好きだけど、今の映画界にとってもこのスタジオの存在は大事なんだろうなと思う。

日本のいちばん長い日


<予告編> 
世界大戦末期、天皇が降伏の決意を御前会議で表明してから、一方では相手国に文書で伝え、一方では国民にラジオ放送で伝えるまで、1945年8月14日から15日までを追った集団劇だ。当時の東宝の勝負作だからオールスター編成。主役級が漏れなくという感じで出てくる。だから内閣の面子もどっしりしている。
その中でも主役級は陸軍大臣三船敏郎(たとえばこれ)、剛直な軍人らしく、もちろん重量感も十分だ。凄絶な大見せ場もある。対立する海軍大臣山村聡これはいまいちだが)も重みじゃ負けない。総理役は笠智衆これ的な)。例によってひょうひょうと。あとは誠実な役ならこの人、の小林桂樹この役好き)が皇居の侍従、官位はたいしたことないがかなり重要な役だ。

一方、そうとうな存在感で主役級と対抗するのが、終戦玉音放送を阻止しようと決起する陸軍の若手将校たちだ。なかでも高橋悦史黒沢年男はストーリーのもう一方の核をなすポジションで、彼らが終始叫びつづけているので結果映画全体もそうとう絶叫のイメージがある。当時はそんなに名前が売れていない若手だったろうけど、役に重ねあわせたのかもしれない。NHK局員役で1シーンだけ現れる加山雄三(当時売り出し中)は1人戦後顔だ。そのほか脇役も重要人物ばかり。地方の反乱軍役、天本英世たとえば)、埼玉の航空隊指揮官、伊藤雄之助これで怪演)、そのほか決起に右往左往する上官たちもそれぞれ妙に説得力があるのも当然の配役だ。ほぼ唯一女性キャラはやはり新殊三千代(これが好き)。
物語の基本トーンとして室内劇で、会議室シーン、組織の室内での口論や闘争、対話、わずかに映る屋外は皇居の庭の一部と路上くらいで、しかも夜だ。つまり絵面は相当に地味で、大作のわりに画面的なカタルシスはあまりない。たたみかけるテンポの会話劇、役者の演技をみる映画だ。

狼の死刑宣告 


<予告編>
ストーリー:妻と2人の息子と順調に暮らしていた主人公。可愛がっていた長男がチンケな強盗の巻き添えで殺されてしまう。息子を殺した、よくわからないギャンググループの一員は無罪釈放。気持ちが収まらない父はガレージの古いナイフを持ち出して犯人の住む団地へ向かう....
さんざん入る突っ込みだとは思いつつ、やっぱりケヴィン・ベーコンが最初良識派のサラリーマンとして登場するところで、どう見ても小心モンの小市民の顔じゃないところよね。通勤電車で椅子をさがしてきょろきょろする顔じゃない。お話としては定番だから「平凡な市民だけどじつは暴力性への衝動を秘めていた」みたいな伏線があるわけでもなく、家族を殺された怒りのみで殺人マシン化していく。ただケヴィンなのでマッチョじゃなくてもアクションにある種の力強さがあって、結局映画としてはすっきり見られる。一見、スポーツやってたビジネスマンならぎりぎりありえるか.....? くらいの動きでまとめてる(ラストバトルはともかく)ところも作り手のバランスかも。アクションムービーだから、見るからに弱々しいおっさんがスキンヘッドに革ジャンで決めてもキワモノ感が溢れるだけだしね。