ようこそアムステルダム国立美術館へ


<予告編><映画館の紹介P>
アムステルダム国立美術館の改修計画をおうドキュメンタリー。国際コンペで勝ったスペインの建築家チームによる設計がかたまって、いよいよ解体工事がはじまってから映画ははじまる。ところがここからが長い。とにかくいろんなトラブルで計画はストップし、プロジェクトの推進者だった館長もほとほとうんざりした顔を見せる。2年以上たって、やっと本格着工の前まで来た…?というあたりまでを記録した映画だ。続編らしきものもあるという話も。
うーん…これ、面白いか?いや、まあ、ある種の面白さはあるかな。
美術業界の中の人や、ミュージアム建築に関わった人にはすごく面白いのかもしれない。住民運動と委員会のダメだしのせいで、建築家チームのコンペに勝ったアイディアはほとんど消滅してしまう。その苦虫を咀嚼しきった顔はたしかにおもしろすぎた。デザインワークショップとか建築紛争に関わった人は、それぞれの思い出しだいで面白かったり嫌でたまらなかったりするかもしれない。
どっちにしてもこの記録映像が映画になったのは偶然の産物だという気がする。国立美術館の建て替えをめぐるプロセスを撮ってくれ、映像作家は依頼される。プロジェクトがスムースに進めば、いわば『ニッポン建築映像際』の映像たちみたいに、デザイン・設計から喜びのオープンまでの淡々とした記録になっただろう。それなりの困難があっても「プロジェクトX」的なチームの団結もの風になったかもしれない。
ところがまわり中からトラブルが噴出し、住民にも文句をいわれ、監督官庁にもダメ出しをくらい、審議委員会みたいなところにもストップをかけられて、とうとう力技でプロジェクトを進めようとしていた巨躯の館長が完成どころか本格着工も見ずに退任してしまい、プロジェクトは「紆余曲折」ということばでも控えめすぎるような事態にはまりこむ。2004年に計画が決定して、2007年くらいにはオープンする予定が、映画が終わってもとにかくまったく工事は進んでいない。でも内部は解体されて、廃墟めいたすがたをさらしつづける。

こうして計画はドラマになった。ただの記録映像がドキュメンタリーとして成立するようになったのだ。これ、前に見た『ベンダ・ビリリ』に似ている。あれは、アフリカのストリートミュージシャンがCDを制作するまでをちょこっと撮るつもりが、色んなトラブルで5年越しになってしまったおかげで、メンバーの成長物語にもなったし、音楽を続けることの意味みたいなものさえにじみ出るようになった映画だった。

この映画はそこまでもいかない。ただひたすらにトラブルが続き、そんななかでひとびとの悲喜こもごもがくりひろげられる、そんな群像劇になった。映画の最後でやっと施工会社との金額のやりとりまで話がいくけれど、入札に1社しか応募がないうえにその金額がばかばかしく高いのを見て関係者が頭を抱えるところで終わってしまう。アンチクライマックスもいいとこだ。ていうか、住民の反対とか役所の変な指導とか責任者の交代とか見積りの不調とか…まあ、あるよね。大きな建築プロジェクトだったら。「美術館」ていう部分ですこし意外性はあるのかもしれないけど…やっぱりあれかなあ、美術と建築の物語なんだから、どうプランが変わって行ってどうコンセプトがゆがめられるのかとかを、もっときっちり見せてくれればもう少し建築的にも面白かったのかもしれないなあ。全体プラン1つ見せてくれないんだもん。美術館の全貌も映像からだけじゃわからないしさ。
あと、単純にキャラクターとして見た時に、『ベンダ・ビリリ』のミュージシャンたちが魅力的すぎるのにくらべて、アムステルダム国立美術館の関係者たちは、わりとパーソナリティとしてはノーマルな専門家たちだ、という不利はある。じっくり酒でも飲めば味のある人達がいるんだろうけど、映像的に見るとなんとなく官僚的だったり薄味の人だったりと、ようするに映ってるだけで絵になるというほどじゃないのだ。ある種のドキュメンタリーはそんな対象でもシュガーコーティングして最初の味を付けて出すんだろうけどね(それこそ「プロX」みたいなさ)、そこはしていないかな、この監督は。
美術館の工事はやっと2013年になってほぼおわり、4月にはついに再オープンする予定になってるらしい。