ジャッカルの日


<参考imdb><予告編>
サスペンスの古典ですね。ドゴール大統領をめぐる史実を題材にしたF・フォーサイスのポリティカルサスペンスが原作。この映画、まずは「おーシトロエンの映画じゃん!」と喜んだねおれは。シトロエンDS19だ。名車中の名車だし、フォトジェニックな車だから、映画にもとうぜんよく出てくる。フランス映画はもちろん、イタリア映画でも。メルヴィルルルーシュ、アントニオーニ、ブニュエル、タチ…名監督の代表作に出てくるし、ほかにもきりがないくらいだ。1950年代、乗用車の「もうひとつのありえる形」を追求したような(けっきょくジャンルにはならなかったけどね・・)スタイルは映画の画面でもとてもよく映える。 
この映画では、大統領や閣僚の専用車として10数台の黒いDSがエリゼ宮に集結する。全長4.8m・全幅1.8mのDSは、メルセデスリンカーンみたいな他の国の首脳が乗る大型サルーンとくらべると小振りだけれど、古典主義的な大統領府の建物の前で、とてもエレガントだ。でも大統領を乗せた車列が暗殺者たちに待ち伏せされて激しい銃撃をうけるシーンでは、防弾装備もろくにないらしく、ガラスは割られ、一輪を銃弾で打ち抜かれてホイールだけになった状態で、シトロエンらしくない野蛮なエグゾーストノートを響かせて、あんがいクイックな挙動で豪快に現場から脱出していく。
じつはぼくは数年前までシトロエンに乗っていた。Xantiaという90年代中盤以降のモデルで、DSから見ればだいぶ普通の車になり、中古車はひどく安かった。それでも独特なサスペンションによるロールしないコーナリングはなんともいえない気持ちよさだし、高速道路での水平移動は、クルージングという言葉がこれほどぴったりくるものはない、運転しててもどんどん疲れが取れていくくらいの乗り心地だった(いやほんとに!疲れた仕事帰りとかね…)。まぁ映画とは何の関係もないですけどね、なんか書かないわけにはいかぬのだ。
シトロエン以外もアルファロメオジュリエッタのスパイダーや、プジョー403あたりのしょぼい(今と全然ちがって、ある時代まではプジョーはださい車しかなかった)セダン、フィアットの小型セダンなど、60〜70年代ヨーロッパ車を見るだけでもけっこう面白い。監督フレッド・ジンネマンは後半はアメリカで作品を撮り続けたけれど、生まれはウイーン、パリでも修行していたからか、舞台がそう、というだけじゃなく、雰囲気としてもヨーロッパ映画っぽい。

映画は反体制グループによるドゴール暗殺未遂のシーンからはじまる。これはじっさいにあった事件だ。反体制といっても元軍人などが多くて、アナーキーなテロリストやゲリラのイメージとは少し違う。執念深く暗殺をあきらめないグループは、プロの暗殺者ジャッカルを高額でやとい、彼はパリ解放記念日の祭典をXデイに設定して、変装を繰り返しながらパリに近づいていく。治安当局は暗殺計画を知って、少しずつジャッカルの包囲網をせばめる。でももう少しのところでジャッカルはすいっと姿を消してしまう…。全体に派手なアクションはないサスペンスだ。かちっとして、理詰めな感じで淡々と進む。それでいて、描写は地味ながら、「計画にちょっと邪魔」くらいの人が簡単に殺されて行く感じがさりげなく残虐だ。ジャッカルが依頼を受けてから実行にかかるまで、特注の狙撃用仕込みライフルを作らせたり、変装用具を作らせたり、という「準備」のシーンが妙にたのしい。