2024年書き漏らし コカイン・ベア,バビロン,首,窓ぎわのトットちゃん,地面師+極悪女王

🔹コカイン・ベア

実話ベースの物語。2023年公開。森の中に放置されたコカインを摂取した熊が凶暴になる話。こんな実話があればそれは映画化したくなるだろう。実際は適量を知らなかった熊はオーバードーズで死亡したそうだがそこは映画。

ギャングが密輸したコカインと一緒にパラシュートで降下しようとして墜落、コカインは森に散らばる。それをパフパフと豪快に食べてハイになるモンスター熊。走れば40km/h超、木登りも人より得意でハンドスピードも人間離れした熊から逃げるすべはない。狙われないことだけがサバイブの道だ。

物語的にはこじんまりとしていてコメディとゴア描写の合わせ技、予告編は完全にコメディトーンだ。主人公は共感を得やすいシングルマザーで愛する娘と友達の少年を救いに熊の森に乗り込む。かれらの前で、ハイカー、森林レンジャー、救急隊員、警官、それにイキった少年チームなどがあらわれ、いいテンポで熊の餌食になる。

一方コカインを回収したいベテランギャングとその手下たちも森に入り、別のスリルを提供する。ギャングは最近亡くなったレイ・リオッタだ。死者は多いが後味は良い。

 

🔹バビロン

デイミアン・チャゼル監督、2022年公開。1920年代のハリウッド、まだ素朴な映画撮影の現場が音声付きのトーキーに変わっていく時代の人間模様だ。主人公は無名の女優志望からスターに成り上がる女(マーゴット・ロビー)、撮影現場で働く青年、それに無声映画時代のスターでトーキー時代についていけない男(ブラッド・ピット)。

この時代の撮影現場といえば、まずは思い出すのが『グッドモーニング・バビロン』だ。本作より10年くらい前が舞台だろう。逆に10年くらいあとを描いたのが『Mank』だ。こちらも撮影現場シーンが楽しい。

それにしてもハリウッド=バビロンの異名はやっぱり『ハリウッド・バビロン』からの連想だろうなあ。ケネス・アンガーのルポである種トンデモ本だけど、タイトルにも、華やかな表舞台の裏のドロドロという題材も、人々の意識に刺さる強さがあったんだろう。

物語は、楽天的・狂騒的な序盤から始まって、サクセスストーリーを挟みつつ、時代が移り変わって色々と物悲しくなっていく定番の展開で、十分に盛りだくさんかつ豪華なんだが、なんだろう、「声が太い」感じがあまりしなかったかな。

 

🔹首

2023年ようやく公開。戦国時代のいつものスターたちの関係を、セクシュアリティをいわば動機として見立てる一作。北野武自身は昭和だからというべきなのか、非常に濃厚なホモソーシャル世界の住人だと思うし、「ホモセクシュアルをネタとして扱う」作法がしっとりと染み付いているタイプだ。かれの映画では男性同士の関係性は濃淡や味わいの微妙な描き分けがあるのに比べて、セックスが前面に出てくることがあまりないのもあって、女性キャラクターは割と機能的・記号的なことが多い。

そんなかれがあけすけに男性同士のセクシュアルな関係を描いているわけだけど、性別は置いておいてもあまり色気がある描き方には思えなかった。それもこっけいさとして描いているということなのかね。実際と関係なく生物として老人に近い豊臣秀吉(たけし)が性から解脱していて、そのせいもあって俯瞰的にライバル大名たちのドタバタを見下ろしているみたいにも見える。

 

🔹窓ぎわのトットちゃん

2023年公開。基本的には子供も大人も安心して見られる作品ということなんだろう。絵柄や子供の振る舞い描写は(意図はわかりつつも)自分の好みではないけれど、メインターゲットから遠く離れているんだし当然だ。それでも嫌いになれないのは、戦前〜戦中の自由が丘や九品仏、緑ヶ丘や洗足あたりを描いたシーンがなんともいえず好きだからだ。

ぼくにとっては「戦前城南地区モノ」のラインナップに入る。当ブログでいえば『生まれては見たけれど』『ちいさなおうち』と並ぶ一作だ。ようするにこの辺りで生まれ育った自分のノスタルジー(どの景色も映画からはだいぶ変わっていたけれど)を掻き立てるのだ。

トットちゃんの家は割合裕福で、彼女の家の近所のシーンも洋風の立派な戸建て住宅が並んでいる。しょうしょうファンタジックな描写にも見えるけれど、洗足は田園調布とならんで同じデベロッパーが同じように開発したエリアだからまったくの嘘じゃない。洗足ほどじゃなくてもちょっと洋風テイストが入った住宅地はあのあたりには多かったのだ。そんな風景を丁寧に描いてくれたのがすごく良かった。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f5/Denentoshi_Honsha.png

洗足 from wikipedia

🔹地面師・極悪女王

Netflixはぼくにとってはいかんせん映画に弱い。「あれあるかな?」と思ってあったことがほとんどない。逆に自分が知りもしない謎エンタメ作品が驚くほど豊富だ。冷静に振り返ると元が取れてるのかかなり微妙になってくるのだが、オリジナルシリーズがあるから命を繋いでいる感じだ。

上の2作、ぼくの視界に入るネット文化圏ではかなり話題、かつその界隈だけでいえばけっこうな視聴率だ。『地面師たち』は大根仁、『極悪女王』は白石和彌、どちらも当ブログでもお馴染みのエンタメ系作り手だ。

....とここまで書いて、両作品について何か言えることがほとんどないことに気がついた。どっちも知らない世界だしね。知らない世界を、実話ベースで本物の迫力を垣間見ている気分にさせつつ、同時に明らかにエンターティメントとして見やすくしていることを視聴者に分からせる、虚実の混ぜ方や画面の説得力がいいんだろう。

女子プロレスの描写については、プロレスご意見番からは辛口コメントもあったけれど、そういうものとして見れば十分没入できた。プロレスといえばWWE会長ビンス・マクマホンのドキュメンタリーも相当に面白い。