PNDC エル・パトレイヨ


監督インタビュー(英語)

アレックス・コックスの名前を最近きかなくなった。 一時はジム・ジャームッシュじゃないが、ちょっとしたカルチャー系の雑誌のかたすみでニュースが出ていたりしたんだけど・・・あ、そうか、そういうの読んでないや最近。 最近作も見ていない。新しくてもTV「濱マイク」シリーズくらいだもんなあ。本牧のバーで撃ち合うやつだ。ちなみにあれはナガセ君が『ストレート・トゥ・ヘル』みたいな感じで・・・とリクエストし、監督は、なるほどマカロニウエスタン調だね、と思ってそういうシーンを入れたら、ナガセ君が言っていたのはおもろいバンドや役者がゲストで出る雰囲気のことだったそうだ。

『エル・パトレイヨ』はそんな彼の1991年の作品。舞台はメキシコ、ハイウェイパトロール部隊の、理想に燃える若い警官が主人公だ。ストーリーはこちらでどうぞ。ネタバレです。
基本的には12chで午後に放映していたような警察ドラマ。正義を信じて仕事についたはずが、賄賂まみれの現実に直面する主人公。新婚の妻も、警官なら賄賂で稼いでナンボでしょ、みたいなノリだ。ワケあり娼婦への想い。友人の殉職。カーアクションとガン・アクション・・・いまでも“パンク・ムービーの鬼才”みたいにいわれるコックスの作品にしてはまとまりのいい話で、ぶっ壊れた世界を期待するとすかされる。チビで理想に燃えていた若い警官、ペドロがいやおうなしにある部分は染まっていきながらも、ヒーローとして再生する、ストレートな映画だ。それにしても、コックスが“パンク・ムービーの・・・”と言われるのは、90%が『シド・アンド・ナンシー』を作ったから、10%がクラッシュのジョー・ストラマーやポーグスと仕事をしていたからだけなんでは・・・

この映画、前作の『ウォーカー』のロケハンをしていたコックスが、ハイウェイパトロール隊員だったスタッフの体験談に感銘をうけて撮ろうと思ったそうだ。監督はメキシコで仕事をするうちに、アメリカのプレッシャーにさらされ、国はグダグダになりながらも、道徳と魅力をうしなわないメキシコ人たちを好きになったという。主人公がまさにそういう存在だ。アメリカという巨大市場がすぐ隣にあって、麻薬にむしばまれるメキシコのアンダーワールド。ハリウッドというアメリカ巨大市場とそりが合わないコックスはメキシコの映画界、メキシコの人々に思い入れる。彼が描いたメキシコが、メキシコ人自身からみてどうなのかは分からないけれど。

そしてその景色も愛しただろう。メキシコ北部の砂漠地帯、植物もほこりっぽい、青空と褐色の大地の世界だ。パトカーは砂塵を立てて爆走し、銃撃戦の硝煙がたちこめる。この映画のロケ地は、同じようにメキシコを愛したサム・ペキンパーが『ワイルド・バンチ』を撮った街もふくまれている。 映画はカット数がとても少ない。つまり普通だったら細かくカットしてつなげるシーンも長回しで一気に撮っている。芝居のつながりや視線の移動を自然に見せるためなんだろう。撃たれた同僚をさがしてブッシュの中を走るシーンなんかはその特徴がよく出ている。室内シーンではどうかなあ・・・ハッタリはないかもしれないね。画面的な。

この映画、エグゼクティブ・プロデューサー(主に資金面を担当)根岸邦明となっている。この人は、日本の映画配給会社「ケイブルホーグ」を経営していた人だ。本人の雰囲気もメキシコ人ぽい。ちなみに、スタッフが本物のハイウェイパトロールに撮影協力を要請しにいったが、警察の暗部を描いているということで断られ、パトカーも制服もオリジナルデザインのものを使っているということ。じつはPNDCという組織の名前もフィクションだ。  ペドロが着任して真新しいパトカーをあたえられ、ニコニコしながらタクシー運転手がしいているみたいな編み物のシートカバーを敷くシーンが可愛い。

結論。『メキシコやウエスタンの埃っぽい風景が好きなら善兵衛もお勧め!!』