ザ・ビーチ

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<予告編>

ストーリー:日常から離れた冒険にあこがれて1人でタイにやってきたリチャード(レオナルド・ディカプリオ)。安宿でであった男に1枚の地図を渡される。秘密の島にある楽園、ザ・ビーチだ。翌朝男は死んでいた。フランス人カップルを誘ってザ・ビーチを探しに行くリチャード。列車でリゾート地へ、船で近くへ、泳いで島へ、そして熱帯雨林を抜けると…そこには信じられないくらい美しい入江と、ツーリストたちのコミュニティがあった。楽園みたいなその場所で暮らしはじめた3人だったが....

ダニー・ボイル監督、2000年公開。ボイルと恊働が多いアレックス・ガーランドのベストセラーの映画化だ。ボイルにとっても『トレインスポッティング』の勢いで、しかもディカプリオ主演、わりと予算もかかった企画だったが、アメリカでは制作費も回収できなかった(とはいっても全世界ではそこそこに稼いでいる)。

しかも本企画、もとは『トレイン』の主演、ユアン・マグレガー主演で進んでいたのが、とちゅうでディカプリオにすりかわり、おかげでユアンと監督はしばらく絶縁状態になっていたというエピソード付きだ。公開20年目に見たぼくの感想は、まずは

「やっぱディカプリオじゃない方がよかったね」。

もちろんディカプリオ主演だからの予算規模だろうし、メジャー公開だろう。でも本作の主人公は、ほんとうはもう少し内省的で引いた視線の観察者タイプなんじゃないだろうか。ディカプリオ主演になったことで、主人公はわりとイケイケの、いろんな女性にもてる、自然に場の主役になるキャラになってしまった。たぶんそのせいで話はよりおバカになった。後半「闇」描写があるけど、そこもとってつけた感がぬぐえず、全体に「いい気なもんだぜ」という視線になってしまい、共感できないのだ。

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本作はインド〜東南アジアにくる欧米系バックパッカーの世界だ。かれらはエキゾチシズムと、本国じゃできない無茶と、出会いと、スモーキーな香りをもとめてやってくる。元は1960年代のヒッピー文化にルーツをもち、スピリチュアリズムへのあこがれも込みだった。だからそういうエリアはヴィーガン向けレストランがちゃんとあったりもする。本作はそんな旅人たちがタイの孤島につくりあげただれもしらない楽園のお話なのだ。

ヒッピーたちは文明社会からドロップアウトして共同体=コミューンを作って暮らした。これはそれのリゾート版だ。ちなみにヒッピー的コミューンは屋久島にあったし、長野県のさる秘境系の村の山腹にはいまでもあると聞くし、前にすんでいた葉山にもその香りがする人々がいた。本作、あるだいじな場面でボブ・マーリイの『リデンプション・ソング』が流れるシーンがある。葉山でもここぞというところで聴いたことある。

コミューンは栽培してる野菜と、目の前の海でとった魚で自給自足している。大麻も栽培していて、ときどき本土に売りにいって生活必需品を買ってくる、そんな設定だ。家は木材とヤシの葉でつくった大きな小屋風で、水は清流が近くを流れている。

本作は、そんな一見ピースフルなコミューンも、その楽園性という虚構のうらで、秩序の維持のための専制的・暴力的なうごめきがあって...というふうに展開していく。ちょっと、南の島の楽園に漂流した少年たちの物語風でもある。『蠅の王』みたいなやつだ。

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そんな舞台で冒険あり、恋あり、サスペンスありの活劇風の本作だけど、ディカプリオ問題を別にしても、ちょっと突っ込みどころが多過ぎて没入しきれなかったのは事実だ。ひとことでいって小ぎれいに仕上げ過ぎなのだ。そもそも孤島に上陸するのに2kmくらい男女3人で楽々と泳いでいくのがフィジカルエリートすぎる。とんでもない軽装で密林を軽々と抜けて、到達したコミューンは完全なリゾート。白い砂の上にハイビスカス的な花が咲き、ヤシがトロピカル感を高める。

しかも物資もないはずなのに男女ともこざっぱりとしている。女性の髪はさらさらでナチュラルメイクは乱れず、男は無精髭もなくシャツも汗ばんでない。後半、主人公はそのコミューンからも少し離れて森の中にひそむのだが、そこでも飢えたようすもなく小ぎれいだ。あと、コミューンにつきもののSEX描写はまったくない。主人公だけがヒロインその他とロマンチックに愛し合うだけで、まわりにはその空気感もないのだ。いやなにもどろどろに薄汚く描けとはいいませんけど。さすがにこれだと自給自足のコミューン描写もリアルじゃない気がする。

ちなみに後半、主人公がダークサイドに落ちるシーンの意味不明さも特筆ものだ。

 

というわけで映画そのものはそんな感じなんだけど、実は撮影時に、さっき書いたみたいに南国リゾート感ある場所にするために、舞台になったプーケット近くのピピ島のビーチをならしてしまい、在来の植生とちがうヤシだの花木だのを植え付けて環境を撹乱していたらしい。しかもビーチは、その後大観光名所になり、おかげで環境が荒れ果てて、とうとう無期限立ち入り禁止になってしまった。

この感じ。環境は観光用にも「消費」される。そんな物語外の「どうなのよ」も込みの1作だ。

■写真は予告編からの引用

 

 ■原作アレックス・ガーランド監督作

■タイを舞台に...

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