グランプリ


<予告編>
ストーリー:1965年頃のF1シーン。フェラーリの伝説的なドライバー、ジャン(イブ・モンタン)、2輪から転向した若手のシチリア人ニーノ、BRMのアメリカ人ドライバー、ピート、ぼんぼんのイギリス人スコットたちがチャンピオンシップを争っている。モナコGPでBRM同士がバトルになりクラッシュ、スコットは重傷を負う。スコットに譲らなかったピートはオーナーの怒りをかって解雇される。しかたなくTVレポーターをしていた彼の腕を買った日本チームのオーナー、ヤムラ(三船敏郎)はピートをチームに呼びよせる。ドライバー生活に疲れを感じ始めていたジャンは美しいジャーナリストに心をひかれていく。それぞれの妻や恋人もからみながら、シリーズはつぎのサーキットへ向かう....

レースものの古典。当時のことはよく知らないがかなりの大作感がある。イブ・モンタンとミフネという各国のスターを呼んできてがっちり演じさせる。F1、1966年シーズンについて回り実際のレースシーンを撮る。主要キャストにはトレーニングを受けさせて、F1風に改造したF3マシンをドライブさせる。サーキットのスタジアムに大量のエキストラを入れて事故シーンのリアクションを撮ったりもする。
まずはオープニングが力入ってる。スタート前の緊張感のある各車とスタッフたちを短いカットでつなぎ、それを4分割や16分割で見せたりする。分割画面で映像が違うわけじゃなく、同じ画面のくり返し。ソール・バスの画面デザインだ。スタートしてからもとろさはまったくない。マシンのけっこう低い位置にカメラを取り付けて先行するマシンを追ったり、エンジンやサスペンションのパーツのクローズアップを挟んだり、いまの超小型カメラなら簡単でも、65mmのフィルムを積んだカメラじゃ楽じゃないだろう。「映画のレースシーンベスト10」っていうサイトがある。『RUSH-栄光と友情』や名作『栄光のル・マン』を抑えてどうどうの1位だ。『世界最速のインディアン』も入ってる。1960年代のF1なんて、いまのラジコンみたいにクイックに動くマシンとじゃ比べものにならない。1976年が舞台の『ラッシュ』とくらべてもどこかのどかなたたずまいだ。でも今よりずっと野太いエグゾーストノイズを吐きだしながら、けっこう暴力的に走る。ノスタルジーぬきで十分かっこいいレースシーンだ。

お話は4人のドライバーにフォーカスする。マシンを降りると女たちが待っている。4人とも遊び人じゃなく、それぞれのだいじな女と過ごすのだ。ただ、こっちのパートはオーソドックスな撮り方で、セットの感じとかライティングとか時代なりの雰囲気だ。そんなにスタイリッシュじゃない。
チームをクビになったピートをスカウトするチームオーナーの三船敏郎。役どころも撮り方もリスペクトが感じられ、三船もそれに応えている。やっぱりハリウッドムービーのなかでそれなりに存在できる日本人となると、三船かケン・ワタナベか、ようするに普通の日本人を超越したビシッとした顔と厚みのある身体がある2人なんだよね。いくら世界的名作の主演でも、笠智衆を活かしきれる監督は少ないだろう。三船演じるオーナーはアメリカ人のピートに、自分は元戦闘機乗りで、米軍機を何機も落としたんだ、という。敵味方だった過去を最初にきちんと直視する人間として描くのだ。
このリスペクトは三船だけじゃなくモデルの本田宗一郎へのものでもあるんだろう。2輪王者から1964年に初参戦、V12エンジンで翌年にはもう初優勝をきめる。67年にはモンツァでぎりぎりの接戦でブラバムを抜き去り優勝する。この年のコンストラクター4位だから立派な有力チームだ。それにしてもモンツァで接戦の勝利。それ映画と同じじゃん! 映画は66年、現実がフィクションを模倣したのだ。
『ラッシュ』の最初、ニキ・ラウダ役のモノローグで「F1は、25人のドライバーのうち毎年2人が死ぬ世界だ」といわせている。この物語でもクラッシュと死は不可避のものとして華麗なレースシーンを黒雲のようにおおうだろう。現実に、映画にかかわった32人のドライバーのうち2年で5人が死に、10年後までにさらに5人が死んだという。

ちなみに撮影シーン。主要キャストにドライブさせて撮ったなかで、イブ・モンタンは途中から先導車に引っぱらせたらしい。奥の車がそんな感じだけど….でもフェラーリの色じゃないなあ。

ブリット


<予告編>
ストーリー:サンフランシスコの刑事ブリット(スティーブ・マックィーン)はある議員(ロバート・ボーン)から司法取引をした証人の警護を命じられる。ところがホテルが襲撃されて、証人も若手刑事も重傷を負う。プロの殺し屋は病院に侵入し、証人殺害に失敗すると、こんどはブリットを尾行する。それはブリットのしかけたトラップで、ブリットが乗るムスタングに追い詰められる殺し屋たちのダッジはSFの街中で強烈なカーチェイスを展開する。事件のプロット自体がなんだかおかしいと感じはじめたブリットは証人の足あとをたどる…..

カーアクションの古典。映画の中でアクションの見せ場は2つあり、1つはカーチェイス、2つめは生身の、銃を持った人間とのチェイス。物語的には2つ目がクライマックスで、空港から脱出しようとする犯人を土壇場で刑事が追いかける。『アルゴ』みたいな、ゲートを通って機内に入ってしまったら….的はらはらがちゃんとある。でも見せ場的には1つめのほうがダイナミックだし、たぶんよく知られてる。だいたいで画像検索してみなさいな。ほとんど車しか出てきませんし。
刑事ブリットが乗るのは68年型のフォード・マスタングGT。ヒットマンたちが乗るのは68年型ダッジ・チャージャー。超売れ線のマスタングとレースイメージも強いチャージャー。可動式ライトで「目」を隠している黒塗りのチャージャーは悪役顔にぴったりだ。マスタングは丸目で主役っぽい。フォード社のこんなコメントもある。当時はまだ映画の舞台になることが少なかったサンフランシスコ市が協力的だったおかげで、日曜日にけっこうな範囲の道路を封鎖して撮影できたそうだ。ちなみにこれ、最近SFロケで撮ったカーアクションフィルムだ。

このカーアクションがおもしろいのは、逃げるダッジがSFの急坂を駆け下りながら道路の凹凸でジャンプして、とことこ走っている旧型フォルクスワーゲンを追い越す。豪快に追いかけるマスタングも抜いていく。暴走する2台のマッスルカー、排気量6000cc以上、300HPを余裕で超える車のわきでとことこ走るビートルはお人好しのおじさんみたいなコメディリリーフ役だ。ところがこのビートルが何度も登場するのだ。暴走する2台におなじようすで追い越される。一見そういうギャグだけど、じつは全然違う。ようするに同じシーンを何度も使っているのだ。
カーチェイスのシーンはとにかく力が入っている。主演スティーブ・マックイーンには当時最高峰だったスタントドライバーがついているけれど、本人もけっこう自分で運転する。顔が見えやすいように窓際に顔を寄せて走ったそうだ。敵役のドライバーもカメラに写っている本人。最高150km以上でチェイスした。後半で車にまきこまれて転倒したバイクが路上をすべる。このスタントライダーはマックイーンの前の作品『大脱走』でバイクスタントを担当したライダーだ。このブログだと『バニシング・ポイント』『ザ・ドライバー』、それにオマージュをささげた『デス・プルーフ』『ドライヴ』…アメ車っぽいおおらかな車が暴走するカーチェイスの映画たちだけど、本作もまちがいなく新しい世代に参照されるクラシックだ。
それだけに、なんでビートルのシーンとそこから直交する広い通りへのコーナーリングシーンをはっきりわかるくらい何度も使い回してるのか不思議だった。