潜水艦映画3本!(その2 クリムゾン・タイド)

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<予告編>

ストーリー:冷戦終結後のロシア。チェチェン紛争の飛び火で反乱が起こる。反乱軍はミサイル基地を占拠し、アメリカと日本にミサイルを発射すると脅す。米海軍はSLBM(核ミサイル)発射能力を持つ原潜、アラバマを派遣する。ベテラン艦長のラムジージーン・ハックマン)に副長は新任のハンター(デンゼル・ワシントン)。司令部から指令が入る。反乱軍はミサイルの発射準備に入った。先制攻撃準備に入れ。ところが準備に入ったアラバマに接近していた敵潜水艦が魚雷を発射する.....

昨日の『レッド・オクトーバー』から4年、1995年の公開だ。監督はトニー・スコット。『トゥルーロマンス』それに『トップガン』。兄リドリー・スコットゆずりじゃないが、陰影がくっきりした派手目の画面イメージがある。ちなみに本作のビジュアル、どう見ても『レッド・オクトーバー』のイメージ、狙ってるよね...乗っかりすぎだよね...

さて本作の原潜は攻撃型(敵潜水艦や水上艦を攻撃する)じゃなく、戦略核ミサイルを積んだオハイオ級という艦だ。核戦争の火ぶたを切れる装備、だから発射は明確な指令を受けて、艦長と副官が同意しないとできない。本作は「発射するのか...!? いやまだしないのか....!?」的スリルがキモ。

その判断をめぐる、前の記事で書いた「コントロールルームの緊迫」を見せる映画だ。叩き上げ白人の艦長と高学歴アフリカンアメリカンの副長。最初はおだやかに艦に乗り込むが、すぐにポリシーの違いが表面化する。そして緊迫が頂点にたっしたとき、対立は一線を越えて.....

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お約束の潜水艦バトルはもちろんある。敵艦の魚雷を受けて、攻撃を避け、反撃して...しかし本筋はそこじゃない。本作ではミサイル発射までの艦内の手順を丁寧に、何度も紹介する。手順、手続き、ルール、指揮系統の形。潜水艦の中を統御しているそんな見えない構造のなかでの対立劇が本作の見せ場だ。

戦地に着く前に艦長はミサイル発射準備の訓練をする。だいたいの所用時間が掴める。そして敵基地に近づくと司令部から無線指令が入る。指令は文章で送られ、艦内で印刷した指令書のコードナンバーと、保管してあるコードを印刷したカードを照合して、それが正当な指令であることを無線員や副長が確認する。核ミサイル発射の時は艦長、副長が同意してキーを回さなければいけない。それには兵器担当の同意もいる。

でも、戦闘が始まり、艦が損傷し、通信機能が故障して、想定していたみたいにすっきりと指令が解釈できなくなってくるのだ。もはやむき出しの対立だけがあらわになる。ただしそこはプロの軍人、ただの喧嘩じゃない。「手続きの正当性」をめぐる戦いなのだ。 本作は1960年代に実際にソビエトのミサイル原潜で起きた命令無視事件をベースにしているそうだ。

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というわけで、本作も『レッド・オクトーバー』にビジュアルは寄せても勘所はちゃんと違えてきつつ、十分にスリリングで、それなりのリアリティも感じる、さすが佳作だ。対立する2人、ジーン・ハックマンは『許されざる者』でも見せた「横暴な権力者」キャラがはまる。ただの横暴野郎じゃなく、ルールの正当性には誠実なところが新鮮だ。じつはラストのちょっと意外な展開も、このあたりのキャラクター設定が効いている。デンゼル・ワシントンはまだ若くシュッとした善玉感にあふれ、かつマッチョだ。

映像はところどころトニー・スコットらしいCM映像っぽい格好いい切り取りがあって楽しい。海上から潜航に移る潜水艦を逆光のなかで見せるシーンなんていかにも彼らしいケレン味たっぷりの映像だ。

■写真は予告編からの引用

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