1917

f:id:Jiz-cranephile:20200224134607p:plain

<公式>

ストーリー:1917年、第一次世界大戦、フランス戦線。若い2人のイギリス兵士、スコフィールドとブレイクは伝令の任務を告げられる。明朝までに前線に行き、指揮官が計画している総攻撃を中止させるのだ。なぜならそれはドイツ軍の罠だったから。2人は危険な前線へと進んでいく....

2020年、アカデミー賞作品賞の有力候補だった作品だ。なんていうか、一見して作品賞といわれて納得感のあるたたずまいだ。渋く重厚な色調に調整された画面、抑制の効いた演出、衣装にも手抜き感がないリッチな映像。だって製作予算が約100億円ですよ。もう堂々たるというのもアレな大作だ。本作の世界はそのまま『彼らは生きていた』の記録映像とかさなる。

本作は全編ワンカット風というのを全面に出している。途切れがない、主観映像に近い画面の中に観客を没入させて、「そこにいるかのような」体験をさせるのだ。いわゆるライド系というのか、疑似体験の比重が高い。物語を外から、あるいは俯瞰して観賞させるのとは違う。現代のスタイルでこの形式を全面に押し出したのが『ゼロ・グラビティ』だ。特別長いカットじゃないが、主観映像で極限状況を描く、という点ではアウシュビッツを描いた『サウルの息子』のありかたは似ている。それから全編ワンカットをやり切ったのが少し前のオスカー作品賞、『バードマン』だ。

f:id:Jiz-cranephile:20200224134637p:plain

『グラビティ』が虚無の宇宙か狭い宇宙船の中、『バードマン』が劇場の中の狭い通路や室内が舞台だったのに較べると、本作の舞台は塹壕からのどかな田園地帯、地下通路、廃墟となった町、川、森の中とめまぐるしく変わる。背景の情報量が圧倒的に多いから撮影の難易度はものすごく上がっただろう。

製作チームは、精密な模型を作って動きや光の回り込みをシミュレートし、荒地に広大な塹壕のオープンセットを作り、人の出入りを厳密にコントロールし、たぶん超高難易度のパズルみたいに撮影を設計していっただろう。メイキングシーンがいくつも公開されている(これとかこれとかこれとか)。デジタルでつなぐだけじゃなく、実際のワンカットが長い。やっぱりねえ、メイキングは見て下さいな。撮影の映画なんだと思う、本作はね。

物語は一応ある。エモーションもちゃんとある。だけどなあ、ライド系の映画にとって、それは味付けのスパイス程度のものだ。主食じゃない。ドラマ的にいえば緩急もあり、アクションと会話と内省と人とのふれ合いと、地獄巡りと....みたいにオーソドックスな構成になっているし、じつに重厚な感じに作ってあるから、決してみていて軽さは感じない。だけど振り返ってみれば(いやじつは見ている間にもそう感じてしまったけれど)、「次はどんな試練(=シーン)....!?」のたたみかけで、体験としてはすごくゲーム的なのだ。

これはそういう映画だ。そういう意図で作られている。だから作品に世界への批評性とかエモーションとかがきっちり詰め込まれている『パラサイト』と較べてオスカーの中で少し不利だったのかもしれない。

f:id:Jiz-cranephile:20200224134703p:plain

それはそうと、本作でぼくが感心したのは時間の見せ方だ。物語はある朝にはじまり、翌朝に終わる。約24時間だ。映画は2時間だからじつはダイジェストなのだ。でもカットはつながっている。いつのまに時間が経ったの? 『バードマン』はところどころ分かりやすく暗転したり「翌朝...」的表現が入ったりして、カットはつながっていても、シーンはときどき切れていた。逆にカットは切れても『グラビティ』の物語時間は上映時間とそんなに変わらない。

本作でははっきりと暗転して切れているのは一回だけ、主人公がしばらく気絶しているあいだだけだ。あとはずっと連続して見えている。そうと感じさせない時間の圧縮のしかた、もう1回みて確かめてみたい気がする。

■写真は予告編からの引用

jiz-cranephile.hatenablog.com