DOGMAN

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<公式>

ストーリー:ナポリ近郊のさびれ切った海辺の町。マルチェロは犬のトリム、ペットホテルの店「DOGMAN」の主だ。別れた妻との娘とあうのが最大の喜び。近所の商店主たちとランチをし、フットサルを楽しむ。彼の頭痛のタネは腐れ縁の旧友、1人暴力団のシモーネだ。コカインをたかり、気に食わなければ店で暴れ、虫の居所が悪いと誰でも病院送りにする。それでもマルチェロは彼を見捨てない。でもある夜シモーネが持ち出した話は一線を越えていた。協力すればマルチェロも町にいられなくなる....

監督マッテオ・ガローネの作品は有名な『ゴモラ』は見た。暴力団〈カモッラ〉に完全に支配されたナポリ郊外の荒廃しきった街を描いた、どんよりしたクライムムービーだ。ゴモラはドキュメンタリー的な部分があったけれど、本作はフィクションのドラマだ。じっさいの事件をベースにはしていても、キャラクターも設定もできごともオリジナルだ。

ゴモラ』の記憶があって本作を見ると、いやでも2つの共通点を感じないではいられないだろう。「荒廃した町」。本作も、まるで第3のキャストみたいに、このどんよりとした町が物語のトーンを決めている。メインのロケ地ナポリ郊外、地中海に面した海浜リゾート、Villagio Coppolaという一角だ。海岸沿いのリゾートマンション群は、そもそも開発の時点で自治体の規制に反していたらしく、住民は追い出され、建物だけが残り.....あとはお決まりの、ね。不正占拠、貧困と犯罪組織の蔓延とかだろう。

近くにはもう少しましそうなリゾートマンションが並んでいて、レストランもあって、いちおう海浜リゾート感はある。でも遊園地は廃墟になり、たぶんだけどおせじにもリッチな気分になれる場所じゃない。DOGMANの店は、道路から直接見えない、この写真の右側の建物の1F部分みたいだ。下の写真と較べると水面の位置が違うけれど、現時点のStreetviewが2010年だから、風景も少し変わったのかもしれない。

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ちなみに主人公が娘とスキューバに行くシーンが2回くらいある。シーンとしては息抜きだ。でもその海が今ひとつ濁り気味で美しい海底もないし、「気持ちいいのか、ここ?」といいたくなるような海だった。

監督は、そもそも荒廃したこの町の景色を、さらに寒々しい色調で撮り(海岸も、パラソルを出して寝転びたいような雰囲気じゃない)、登場人物もすごく限られているので、社会から隔絶された名前通りの村みたいに見える。そのちいさなちいさなコミュニティで、逃げられない人間関係に主人公は追い詰められていくのだ。

それにしても、主人公マルチェロ。どうみてもポップなエンタメの主人公じゃない。役者マルチェロ・フォンテはイタリアでもほとんど無名の俳優で、こういっちゃなんだけど、ヒーローはおろか、いい人でさえもなく、どっちかというと小狡い人の役をあてられそうな雰囲気だ。彼は小さく地味で弱々しい。でもじつはコカインのディーラーをしているし、時に奇妙な行動力を発揮する。

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主人公は暴れ者シモーネと古くからの付き合いで、友だちということになっている。その関係は全然対等なものじゃなく、シモーネがいつも一方的に奪っていく。こういう、敵じゃないが逃れられない支配と被支配の関係は、犯罪映画ではときどき出てくる。はたからは「なんで手を切らないの?」と歯がゆくなるようなアレだ。『冷たい熱帯魚』もそうだった。本作も歯がゆくなるというか、いまひとつマルチェロの心理が理解しにくいくらいに、内面を説明しない。

マルチェロが扱う犬たち、いかにも犯罪組織のメンバーが好みそうな猛犬を手入れしたりもするんだけど、猛犬はあきらかにシモーネのたとえとして描かれてはいる。

 ある事件をきっかけに主人公の意識がはっきりと変わる。ちなみにここまではネタばれしてしまうけれど、主人公は一度逮捕されて収監されるのだ。ここの描写がまたかなり不思議。絵に描いたような暴力的な男たちがうようよしている監獄が映される。あきらかにその中で最弱の主人公が不安にこわばりながら入所する。ここでどんな地獄がまっているのか....ところがとつぜん話は1年飛び、マルチェロはおつとめを終えてるのだ。そんなら監獄シーンごといらないじゃん!あれは不思議だった。

お話は、観客の大部分が期待する通りに進むだろう。でもまるですっきりとはしない。どんよりと終わっていく。行き場がない、どこにも救いがない風景の中で、すっきりした世界なんてないのだ。

■画像は予告編からの引用