Guava Island

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Image by Amazon studios frm NYtimes

<Amazon prime>

ストーリー:舞台はカリブ海あたりの架空の島。むかしはパラダイスだったこの島も、特産の"青い絹”産業に支配されて、大人たちはみな工場労働者だ。そんななかデニ(ドナルド・グローヴァー)はラジオで歌って仕事する。幼馴染みのコフィ(リアーナ)とつかず離れずの毎日だ。ある日デニは日曜夜のフェスを企画する。でも島と産業を支配するレッドは島民たちが休んでフェスに参加することを許さなかった.....

ドナルド・グローヴァー。ぼくは役者としての出演作品見たことがなかったから、"This is America" で知ったくらいのにわかだ。このMV、シリアスなメッセージがぎっしり詰め込まれているのは分かるが、すごく正直にいうと、この中で取り入れられてるアフリカ起源のダンスは、どうしてもユーモラスに見えるわけだ。彼の体型も動きも表情もたたづまいも、どことなくじんわりとしたおかしみすらある。わざと稚拙なアニメで表現したMV、”Feels like summer"もそうだ。なんだろうな、安易にルーツとつなげるのもアレだけど、このアニメなんかはアフリカの床屋の看板アートの狙ってないユーモアを思い出す。

さて本作は、グローヴァーが“This is America"MVの監督ヒロ・ムライと組んで制作したストーリー付きMVのような中編だ。55分。アマゾンプライム会員なら無料だし、お気軽だ。ここのところ、シンガー+俳優のアーチストの、アルバム全体を映像化したみたいな作品、ビヨンセの”Lemonade"や、ジャネール・モネイの”Dirty Computer"なんかがある。グローヴァーはシンガー+俳優というより、俳優+シンガーなのかな?

かれにいわせると、この手のものの古典、プリンス”Purple Rain"に刺激を受けたという。あとMV系じゃないが、ブラジル映画の傑作(いろんな意見があるタイプの作品だけど)、ある種の映画のタイプの元祖になった”City of God"もインスパイア元だといっている。映画としてはジャマイカを舞台にした”Harder they come"を思い出すというレビューもあった。

さて、本作はストーリーにもあるみたいに、アメリカ=資本主義へのメッセージが込められている。でも、いま、アメリカのエンターティメント映画では、人種や性別で抑圧されていた人たちのメッセージをほんとにストレートに見せられるようになってる。ごくごく限られた作品にしか接してないぼくには、ミュージシャン・役者のグローヴァーがどのくらい突出して「社会派」なのかは分からないところもある。

おはなしは実はとてもさらっとしている。アマゾンの紹介ページにはスリラーとか書いているけれど、そういうものを求める人の見る作品じゃない。本作は、「音楽」「人間らしい時間をだいじにする生き方」「文明化されすぎてない島の自然と暮らし」的なものがゆるぎない善としてあり、「資本主義」「抑圧的な支配者」がうたがいようのない悪としてある。メッセージは、寓話・童話みたいなシンプルなストーリーとしてなぞられて、本作の基調になっている。けれど突っ込んで描写しているわけじゃない。突っ込んでこの設定について考えて作っているようにも見えない。

あと、ドラマとして見るとキャラクターたちはほとんど人物造形がされていないのに気が付く。主演の2人はそれなりに魅力的だ。だけどそれはグローヴァー、リアーナというスターのかもし出すなにかだ。デニは無垢な妖精みたいな存在だし(たしかにミュージシャンでそういう人は実在するとは思う)、いっぽうコフィは妙に古風な耐える女系の受動的なだけの存在になっている。

そんなこんなで、風景とあじわいのある映像と、思い出したように出てくるデニ=チルディッシュ・ガンビーノの歌をしばし楽しむ、ぼくにとってはそんな作品だった。