アンダーザシルバーレイク


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ストーリー:LAの一角、シルバーレイクに住むサム (アンドリュー・ガーフィールド)は無職で家賃も払えない駄目男。だけど中庭にプールがあるこぎれいなアパートに住み、売れない女優のセフレもいる。ある日、美女がプールに現れた。 部屋に入れてもらったサムはもう少し....というところでその晩はお預けに。ところが翌朝、彼女、サラの部屋は空っぽになっていた。 サラが忘れられず捜索に出たサムの目の前では奇妙な陰謀や不思議な集団、さまざまな女の子たちが現れて....

これはねぇ、はまるとけっこう大事な1本になるかも知れない。とくに若い時に出会ってると。青春映画なんだよね、かなり。サムというキャラクターは「若い愚かさ」を体現してるみたいなところがあって、距離を置いて見るとわりと感情移入しづらい。監督は『アメリカンスリープオーバー』でもそうだったけど、マインド的にそちら側に寄せてる感じがする。


もう一つの特徴は、物語世界がすごくゲーム空間的だということ。主人公サムはプレイヤーでもあるしゲーム空間内のアバターともいえる。だからサム自身はほとんど物語を持たない。ちょっとした過去や思いはありそうだけど、かれの映画の中での目的は、この世界を探索して、秘密の切片でもいいから見つけたいということだけだ。ドラマらしくするためにかれの探索は消えた美女サラを見つけることに置き換えられているけれど、ほぼそれはマクガフィンだ。余談だけど、サラはプールのシーンも含めてモンロー調にデザインされたキャラ。女優さんは『ローガンラッキー』で運転とミニスカが大好きな主人公の妹役だった。
ゲーム的なのは人々との出会いにも現れる。サムは色々なところに行く。パーティーだったりなぞの作家の家だったり意味ありげな名所だったり秘密の豪邸だったり。金もないのにいろんなパーティーに潜入できるのだ。会場ではかならず一癖ある美女が「ハイ」と微笑みかける。そんなにディープな付き合いになるわけじゃないが、サムを次の展開にいざなってくれるのだ。最初のサラとの出会いだってすごく簡単だ。女の子たちはいろんなバリエーションがありつつみんな可愛い。出会う女の子の1人は監督のデビュー長編『アメリカンスリープオーバー』で主演してた子、というまぁ変な設定だ(ちなみに似てるけど違う女優)。


そしてメインはこの世にうごめく陰謀と見えない力をめぐる謎解きだ。サムの世界ではポップスのレコードや古いパッケージやゲームの画面が秘密めいたメッセージを暗号で送ってくる。かれは頭をフル回転させてそれを解読し、メッセージが伝える場所に行く。するとまたなんとも意味ありげな、というか意味しかないような人物が現れて世界の一端をつたえるだろう。そういえば、途中で『メディア・セックス』そのままの話が出てきてた
そういう映画だから、物語や人物に共感したい、つまりドラマを求めて見るとなんともすかされるはずだ。キャラクターはどれもあまり深みやリアリティーがあるように見えない。それにストーリーだって虚実入り混じって、この世界の現実なのかサムの妄想なのか作者が直接観客に見せたいビジョンなのか分からない。
このゲームの世界観は、アメリカのエンターティメント業界の裏側にある(らしい)見えない力、的なアレだ。古くは『ハリウッド バビロン』に描かれたセレブたちの闇、時には病み、時には不意の事故で死んでいくポップスターたち、ショービジネスに憧れて、でもいつの間にかドロドロとした欲望の餌食になる若い美しい女の子たち。セレブたちの不安定なメンタルに入り込むスピリチュアリティやカルト。


じつはサムが出会う美女たちはほとんど全員女優志望だったり売れない女優だけど性産業にいるのだ。この映画、よく『マルホランドドライブ』や『ララランド』が引き合いに出される。あと、『インヒアレント・ヴァイス』『ナイスガイズ』あたりが、近いといえば近い?明るくてカラフルな画面の中でポップな世界のダークサイドがだんだん見えてくる。そんな世界で画面のあちこちに、分かる人には分かる記号的なアイテムがちりばめられる......ね? はまる人にはたまらない世界でしょう。カルトムービーになるにはちょっと薄味な気がするけど。
画面は美しい。派手なギミックはないけれど登場人物の服やプールや湖の水面や街の鮮やかな緑やパーティー会場の照明や、楽しげな気分になれる。舞台になっているLAのシルバーレイク、おおきな貯水池の周りにひろがる住宅街だ。衛星画像で見ると、あきれるくらいにプール付きの家がおおい。サムが住んでいるコンドミニアムの中庭もプールだ。こうなると贅沢品というより標準装備?と思えてくるくらいだ。