愛の渦


<予告編>
ストーリー:都心のマンションに秘密のスワッピングサークルがある。男性は20000円、女性は1000円を払えば参加できる。今夜の客は男女それぞれ4人。男は如才なさそうなサラリーマン、少しヤンキーが入ったフリーター、太った童貞、うつむきがちなニート、女は気が強そうな保育士、外見だと一番もてそうなOL、常連だというピアスだらけの歳がいった女、それに無口で地味な女子大生。まずはリビングに全員あつまる。タオルを巻いただけの裸だ。重苦しい沈黙から、最初にサラリーマンと保育士、フリーターとOLが話がつく。カップルは下の階の「ヤリ部屋」に行くのだ。おたがい丸見えの4つのベッドがある。それぞれニーズがない童貞と常連もとりあえずカップルになる。そして残った2人。無口な2人だったけれど、いざSEXがはじまると他の男女はあぜんとした。地味な雰囲気から想像もつかないくらい女子大生ははげしく動き声をはりあげる…...

公開当時はけっこう話題作だったんだろうね。ぜんぜん知らなかったけど。三浦大輔の監督・脚本作品。かれの監督作だと『 ボーイズオンザラン』があったけれど、脚本が三浦、監督大根仁の『恋の渦』が設定といい語り口といい双子みたいな作品だ。20代くらいの男女が都会の一室に集まる。それぞれに男が、女が欲しいと思っている。男にも女にも強いやつ弱いやつがいて、それは同性の間での力関係でもあるし、モテ・非モテの区分けでもある。短い時間のなかでかれらのバランスはめまぐるしく変わる。

強いやつははじめはにこやかに、温和に振る舞っているけれど、欲望がむき出しになる瞬間キバをむく。弱いやつは強者が占有している残りのスペースで生きようとする。強い側に入っていたつもりが弱い側にひっくり返ることもある。そんな集団の関係のダイナミズムを描ききったところは『恋の渦』が上だ。微妙な力関係の探り合いも、優位に立ったと勘違いしてひっくり返されるやつも、最後のどんでん返しも。本作も同じだ。でも明白な主人公がいる。そして主人公の魅力が映画をひっぱっている。

いうまでもないよね、門脇麦だ。序盤、受付で話しているところはどこからみても冴えないのに、後半はびっくりするくらい妖艶に見える。撮り方をおいといても、ふつうの女優だとこのふり幅はなかなかでないんじゃないか。乱れまくっているところでは体中にオイルだか霧吹きをふいて、ちょっとテカリ過ぎじゃないかくらいの汗みずく風で熱演する。何日も練習したという悦びの声も、あまりそれらしく聞こえないけれど、すごく声は出てる。まわりを支配するような強さじゃないがいつのまにか目を離せなくなるような存在感がある。スワッピングだから、基本だれもが色んな相手と寝るわけだけど、他の男の下でこっちをみる彼女の色っぽさはただごとじゃない。


男も超インディーズの『恋の渦』とくらべるとメジャーな役者がいる。フリーター役の新井浩文のいつもどおり底知れない感じがいい。デブでもてない童貞役の駒木根隆介(『サイタマノラッパー』)は、そう見えつつもちゃんとした役者のたたずまいで画面がもつタイプだ。それにウェイター役の窪塚洋介。いちサービス係でありつつ、観客といっしょに男女の生態を観察している立場のかれは、ふわふわ頭にだるそうな喋りでイメージ通りだけど、なんだろう、独特の品の良さがあって、超然とした立場にぴったりだ。

物語は序盤、見た通りにフリーターと世間慣れしたサラリーマン、保育士とOLが強者側になる。4人ともそれなりにSEXとうまい距離を取れるタイプだ。でもなんともいえないところで1人がそこから滑り落ちる。地味な側だったニートと女子大生ははるかにSEXにのめりこんで周囲を圧倒し、童貞も健全な童貞なのでこのチャンスにものおじせずに直進する。強い側の男と女は欲望が満たされなくなると攻撃性をむだにむき出しにしはじめる。そんな煮詰まったところにコメディリリーフとしてカップルが途中参加する。記号的なまでにコメディリリーフであり、男は柄本明の息子時生、女性は4等身のまるまる太った金髪だ。柄本時生ははじめて見た気がするけど、若いのに味がありすぎる風貌で、バカップルを完璧に演じきっていた。

物語は『恋の渦』よりある意味さらにミニマルな1室。いや2室かな。舞台とおおきな違いがあって、舞台では上の階にあって起きていることがよく見えなさそうな「ヤリ部屋」をもう一つの場所としてがっつり映しているのだ。映画では下の階になっている。舞台ではSEXシーンはどうしていたんだろう?声は聴かせていたんじゃないかなあ。「その間のこと」をみんなセリフで説明してたらつまらないし。最初と最後は『恋の渦』にはなかった〈部屋の外=街〉のシーンが入る。部屋の中がリアルで外の世界はぼんやりしていた『恋の渦』とちがって本作では外の世界がリアルにある。夜が開けて朝の光が差し込んでくる。部屋の中が一瞬の夢みたいなときなのだ。


舞台の『愛の渦』