渇き。


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ストーリー:元刑事藤島(役所広司)のところに別れた妻から連絡が入る。娘(小松菜奈)が行方不明なのだ。あれはてた暮らしをする粗暴な藤島だが、自分なりの捜査を開始する。すると見えてきたのは、分けの分からない影響力をもつ娘の姿と、そのまわりにいる訳の分からない暴力的な勢力たちだった…..
公開当時は、日本のある部分にうごめく闇、的なうちだしだった気がする。少女が悪魔的だったり、暴力的ないろんなグループがうごめいたり。たしかに見たらその通りだった。でも映画としては闇をひりひりとえぐる映画じゃなかった。監督もインタビューで言っていたけれど、アウトロー的主人公が悩まずに突っ走る痛快(ややハチャメチャ系)クライムアクションムービーだったのだ。役所広司がいい人イメージを破壊しようとあばれまわる。この、肌が黒っぽく、いつも汗でてかっている主人公は70〜80年代感はある。確信犯的に主人公を70年代のグロリアだかセドリックに乗せて暴走させる。30年落ち、40年落ちの中古車に乗る、というのはじっさいは趣味人としての熱意がなければできない。でも映像的にみれば、当時のアクション映画やアクションドラマでは、予算のせいかかならず数年落ちの中古車がカーアクションの主役だった。それこそ古いセドリックなんて常連だった。そういう絵面ねらいだろう。

プロットはかなり込み入っていて、娘は警察・やくざ・半グレ集団・地域の有力者もろもろがからみあうなかにぽっかり浮かんだ少年少女売春組織にコミットしていて、その過去もほりさげるといじめや自殺やいろいろあるんだけど、たぶん2時間でじっくり理解させようとするとそうとう面倒だ。だから映画ではそのあたりは原作にちゃんと義理は立てつつも、「ま、1回で分かるわけないし」という割り切りで、スピード感や、絵面のめまぐるしい変化・時制のいったりきたりでシャッフルされる、中島監督いつもの感じで仕上げられている。警官なのに殺人マシーンになっている男とか、掘り下げればおもしろそうなんだけど、いっさいそういう時間はさかない。そのリズムから行くと、アクション的な頂点をすぎてから娘の行方不明の真相にちかづいていく部分はそうとうに蛇足感が強い。
ここでの小松菜奈はある意味『バクマン』と似ていて、つまり主人公がおいかける目的物としてシンボリックに存在している。回想シーンのなかでいろいろと人となりは描かれるけれど、「……そうか、ま、普通じゃないんだな、よくもわるくも」というところだけが分かる。デビュー作だし、込み入った芝居はどのみち無理なんだろう。岡崎京子が作り出した、悪魔性をもったポップな少女キャラクターの延長に見える。キャラクターでいうと悪徳刑事風の妻夫木聡がなかなかいい雰囲気。あるシーンでは妻夫木君が藤島の車でひかれてふっとばされる。これが笑えるくらいに爽快に吹っ飛ばされ、というかあきらかにコミカルなテイストを入れてきてるんだけど、普通は最低でも重体になるところを、軽快に立上がって捜査の指揮をとる。
というわけで、できごとのインパクトや物語上の「闇」はいろいろあるけれど、すべてにおいて深刻にささるような作りじゃなく、辛みスパイスを豪快に効かせた料理みたいに刺激物としてたのしんでいこうよ、というタイプのエンターテイメントだったということを公開2年後になって知るのであった。