脳内ポイズンベリー

<予告編>
ストーリー:30歳まぢかのいちこ(真木よう子)はケータイ小説をぽつぽつ書いているけれど定職もない。トラウマ込みで彼氏と別れてからは独り身だ。食事会で会った年下のアート系男子、早乙女にぐうぜん再会したいちこは思い切って声をかけ、あれよあれよと部屋に泊まり、つきあうことになる。彼女の一番の理解者、編集者の越智には思いを寄せてられて、つきあったのはいいけど意外とアレな早乙女と、誠実で安定感がある越智との間でゆれるいちこ。でも書いていた小説が意外な大成功をおさめると……..そんな彼女の行動を脳内の5人、ポジティブ担当の石橋(神木隆之介)、ネガティブ担当池田(吉田羊)、衝動担当のハトコ、記憶担当の岸、それをまとめる理性担当吉田(西島秀俊)が毎度おおさわぎの会議で決めている。でも優柔不断な吉田のせいもあって、いちこの決断もあっちこっちへぶれて…….

インサイドヘッド』を飛行機で見たから見てみた。あれだよね、この2作、無関係に同時に構想されて、制作されてたんですよね….? で、この映画。恋する女の脳内の葛藤を複数の人のパワーゲームとして描いて、『メアリー&マックス』的に〈自分を好きになれることが始まりなんだ〉というすっきりした落としこみでシめる。外部世界の恋の部分には新味はない。恋のあれこれは、脳内のかれらに会議をさせるお題ということだろう。

で、前半はちょっとキツかった。しょうがないですよね。おっさん向け映画じゃないし。演技から見せ方からセットから、やっぱりメディア業界でいうF1層向けなのがよくわかる。たとえばいちこの家。セットについてはここにくわしいインタビューがある。ていねいに作り込んであるけれど、どこか一昔まえ感をもってしまったのは、「現実よりすこし素敵な生活」を見せる方向だからだ。定職がない、専門技量もない女性の収入にしてはどう見ても広いし凝ってるし物も多い。

脳内の構成、前に進めるポジティブがいて、抑制系のネガティブがいて、自分の原型に近い衝動がいて、内外を総合的にまとめる理性がいて。あと記憶係。『インサイドヘッド』の感情の要素と似てるようでちがう切り口だ。こっちは脳内の機能を5人にわけた感じだよね。だから『インサイドヘッド』ではメンバーと別にシステム化されていた〈記憶〉が、こっちではメンバーの1人になっている。ただ、この人は記憶というより記録で(仕事も書記だ)、事実関係を確認させるだけ、記憶があたえる影響を感じさせる役柄じゃない。けっきょく他の4人のなかにそれぞれ感情込みの記憶があって、それが判断に影響してるのだ。

ネガティブの池田は重要なポジションで、行動にも影響を与える。でも抑制系のだいじな役割はあまり描かれていないような気もする。たんに〈自己評価が低い自分〉みたいなキャラで、吉田羊のカリカチュアした芝居もあって、いまひとつ共感しきれなかった。さいしょは「この男に好かれる自分に」とふるまっていたいちこは、終盤で「自分が好きになれる自分になろう」と視点を変えることに成功する。ここでのネガティブはどっちかというと改心する側なのだ。
脳内会議が収拾つかなくなってるとあらわれて全部持っていってしまう謎のストロングな女がいる。彼女が支配するといちこも急にビシィッとした女に(そのときだけ)変わる。理想化されたカタルシス担当として彼女がはいってるところが、そして彼女はあくまでイレギュラーにしか登場しないところが、バランスだなあと思う。

ま、そんな小理屈をならべてみましたが、いちこが恋する早乙女がじつにしょうもないキャラである上におっさんが共感するタイプでもないので、終盤の展開はOK! と思いました。