キングスマン


<公式>
ストーリー:英国紳士たちがかつてひそかに結成した秘密情報部隊キングスマン。世界規模の闇の組織で、ロンドンから郊外の基地までプライベート地下鉄を持っていたり、オリジナルの武器を大量に開発していたりとそうとうなバックがいる様子。17年前に死んだ隊員の遺族のところに1人の紳士がやってきた。遺族の家は下層の香りがぷんぷんとし、母親にはタチの悪い親父が旦那面でくっついている。紳士ハリー・ハート(コリン・ファース)は情報部隊の主要メンバーで、かつて命を助けられた同僚の息子エグジータロン・エガートン)をスカウトに来たのだった・・・
コミック原作。原作マーク・ミラー、作画デイブ・ギボンズ。アメコミにそんなくわしくない僕から見ると、あの世界は日本みたいにおおぜいの作家がいるわけじゃなく、ベテランのビッグネームがえんえんとシリーズ物を描きつづけているイメージがある。この2人だって大物かつベテランだ。コミックの中のハリーはコリン・ファースというより、もう少し成田三樹夫成分が濃厚だ…...監督マシュー・ヴォーンはコミック原案にもかかわっている。脚本にも、製作にもかんでいるから、そもそもの企画がかれのものなのかもしれない。

映画としてはじゅうぶんにお腹いっぱいになる、てんこもり系の1作で、往年のスパイアクションが大好きな人からすると、オマージュネタの連発に「これこそ現代のリバイバル!!」……….って、いやどうかな。ぼくが知ってるかぎりの、昔のスパイアクションとはやっぱり肌合いがちがう。シリアス系はともかく、エンターテイメント系スパイアクションにぼくが共通して感じるのは、独特のゆるさだ。ほんらいハイテンションになりそうなジャンルなのに、ユーモアまじりだし、安心してたのしめるゆるさが基本トーンにあるような気がする(クレイグの007はそのへんを締めて現代化した)。本作はゆるくない。どっちかというと、スパイアクションというフォーマットをつかって作ってあたらしい世界を切り開こうというタイプの映画だ。ぼくがお気に入りの『コードネームU.N.C.L.E』とはそのへんはちがう。本作のほうがプログレッシブかもしれない。そのせいなのか、監督の作風だからか、破壊的だし、小道具やスーツが小粋でも、いわゆる「趣味がいい」世界とはちょっと違う。っていうかぜんぜん違う。むしろ悪趣味ぎりぎりだ。だけど悪趣味映画として開き直ってげひげひいうタイプかというとそれも違う。洗練された悪趣味だ。趣味がいいひとたちが悪趣味をたのしむ、というスノッブな世界なのかもしれない。サヴィルロウ的英国紳士の世界は「価値」としてたてまつられているんじゃなく、やっぱりパロディックに描かれている、とはいえ完全に外から見てるんじゃなく、ある程度それが分かってる人たちがネタ化してるのだ。王族のおひめさまがありえないくらいビッチ化するのだってそれだよね。

小ネタは十分過ぎるくらい仕込んであって、だからかIMDBでもトリビアのコーナーがやたらと充実している。公開1年もたってこのあたりは趣味人のみなさんが語り尽くしてるはずだ。007だけじゃなく、ぼくが大好きな『裏切りのサーカス』ともキャスティング的にかぶっているし、いろいろ思いうかぶだろう。
それにしても、本作もそこはかとなくか、露骨にか、ある種のアメリカ人をむちゃくちゃ悪意にみちた描き方してるわけだけど、アメリカでも興行収入は余裕で100億突破だ。予算は『U.N.C.L.E』とそんなに違わないのに全世界の興収だと4倍ちかいヒットぶり。まあしょうがないか。派手だもんなあ。
ところで本作のテーマ的なセリフ、「Manner maketh man」これ格言だそうだけど、初めて聞いたのはある曲だ。なんてもったいぶることもないかもしれない。そういう人けっこういるんじゃないか。そう、スティングの『Englishman in NY』です。