ピンポン


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ストーリー:おさななじみのペコとスマイルは卓球仲間。陽性で天才肌のペコと無口で感情を見せないスマイル、なぜか2人そろって、図抜けた才能のもちぬしだった。江ノ島が見える高校の卓球部員になった2人。2人をそれぞれに教えみちびこうとする老人たちがいて、他校の個性ばりばりのライバルたちがいて、ペコとスマイルの季節はめぐる…….
TVアニメです。監督湯浅政明は『マインド・ゲーム』という強烈にオリジナリティがある劇場用作品を作っているけど、TV作品ももちろん好きだ。『ケモノヅメ』、それに『四畳半神話体系』!!『四畳半』はぼくにとってはTVアニメのランキング堂々の1位だ。たぶん間違いない。
『ピンポン』の原作はだいぶ知られてる。どうなんだろう。ふつうにメジャーですよね? 松本大洋の絵は、ヨーロッパ漫画大国の一つ、ベルギーの漫画ミュージアムにもちゃんと展示されていた。本人は対談で「じぶんは絵を描く〈地肩〉がそんなに強くない」(持って生まれたうまさみたいなことね)といっているけれど、たまにほれぼれするような、絵の魅力で読者を停められる1人だ。

湯浅監督はアニメの画風を決めている絵描きタイプじゃない(クレヨンしんちゃんだって作るし、四畳半は中村佑介の絵がベースだし)、演出家タイプだ。でも湯浅的なるものはいつも画面から感じる。たとえば本作では構図や絵の切り替えのリズムも決める絵コンテをぜんぶ自分で描いている。湯浅的なもの。飛び回るような仮想のカメラの動きだろうし、いくつもの画面スタイルをどんどん切り替えていく見せ方かもしれない。サウンドとのシンクロもあるのかな。だからしっとりした実写の2次元版みたいなアニメ(それこそ原恵一もそうだ)とは対極の、マンガ活劇としてのアニメになる。
そんな湯浅作品の中では本作は比較的実写ノリに近い。原作に合わせたんだろう。マンガ記号をほとんど使わない松本大洋は、風景と人物が1つになった画面で見せるタイプだ(それでも本作はスポーツ漫画の古典にならって、人物と効果線だけの表現もわりと使っている)。アニメでも鉛筆と水彩調の達者な風景画をいろんなところにはさんでいる。鎌倉西部〜藤沢でロケハンした見慣れた景色だ。

目につくのはスプリットスクリーンだ。画面をいくつかのコマに分割する見せ方。群像劇を見せたり、同時におこるできごとを見せたり、時間を細分化するのによくつかう。マンガのばあい、コマは時間に沿った映像のかわりでもあるし、同時に目に入るスプリットスクリーンにもなる。だから、映画にある細かいカットの切り替えと、マンガでの小さいコマによる同時進行的な描き方は、おなじともいえるし、いやマンガのそれはスプリットスクリーンだ、ともいえる。本作では試合のシーンでこのスプリットスクリーンがよく出てくる。同時にいろんな立場の人間を見せることで複雑な雰囲気になるし、画面にグラフィカルなデザイン要素が入りこんで、それだけでもちょっとかっこいい。おまけに、たぶん動画も減る。小さなコマの中で動いてる絵はだいたい1つしかないからだ。監督は製作にフラッシュを多用して効率をあげたといってる。動画のコマ数の感じがいろいろだな、と思ったけどそのあたりにフラッシュならではのあれが出てるのかな?
お話は基本原作どおり。少年2人の、ヘンなひねりのない友情モノで、気持ちのいいライバルたちが周りで星座のようにかがやく。そうでありつつ『カラテ・キッド』スタイルの少年と老師の成長モノでもある。アニメシリーズでは、ライバルたちのエピソードをふくらませて、それぞれの物語があるキャラクターたちにした。そしてスマイルはちょっと『アナ雪』ばりに、心をとざして能力だけ強大になってモンスター化したかのような比喩で描かれて、それを太陽神ペコが救い出しにくるお話になっている。とはいえ改変も松本大洋とはなしあってやってることらしいし、原作の雰囲気はじつにそのままで、印象的なシーンの構図もいかしていたりする、かなり忠実な映像化だった。