コララインとボタンの魔女


<予告編>
ストーリー:いわくありげな築150年の家に引っ越してきた少女コラライン。パパもママも仕事が大変で相手をしてくれない。上の階にはネズミのサーカス団長、下の階には太った元ショーガール2人が住んでいて、近所には口の悪い少年がいる。退屈しきって家のなかを探検するうちに壁に小さな扉を見つけたコラライン。そこを開けると....ただのレンガの壁。でも夜になるとそこは別世界への通路になっていた……...

メアリー&マックス』と同じ年に評価を分けあった、同じ手法つまりストップモーションのアニメだ。監督は『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のヘンリー・セリックニール・ゲイマンの2002年のファンタジーノベルの映画化だ。こちらもはじめのオープニングロールのシーンがすごくいい。魔女が小道具の人形をつくるんだけど、つくっていくプロセスをストップモーションならではの動きでちょっとマジカルに描く。押井守の『GHOST IN THE SHELL』を思い出す、いいイントロだ。
だけど、そのあとは、画面をもっともっと生っぽくすればいいのに、と思った。『メアリー&』は手作りの人形や小道具の「もの」としての魅力が画面の魅力になっている。いやね、この映画だって実写のよさはあります、じゅうぶん。でも………..まぁなあ。DVDで、モニターで見てるから、っていうのもあるかな。映画館では3Dで公開してる作品だ。DVDで見ると質感表現の技術があがってきたCGアニメーションと見分けがつきにくくなってしまった。CG自体そこここで混ぜているからなおさらだ。物語の中の人間はつるっとしたスムーズな顔で、表情もくるくると変わるし、動きもこういうモノだと思えば不自然じゃない。コララインの髪もはらっと動く。それからライティングもシンプルな光の当て方じゃなく細かく作り込んでいて、そのぶん生々しさが減っているから、CGとのつながりも浮いていない。色もあざやかだし、カメラワークも流麗で画面の中の出し入れもダイナミック。
キャラの動きの演出はちょっと常套句的なとこはある。カリカチュアライズした「芝居がかった」演技なのだ。表情も片眉をあげてみたり目を細めてみたり、なんだかおしゃまな子役かカートゥーン風になっていて、もちろんわかりやすいけれど、表情にとぼしい人形に自分の感情を投影しながら補完する、みたいな人形劇ならではの見方とはちがう。

まあこのあたりすべて、フルCGの画面なれした子供の観客にも「なにこの昔っぽいの」と引かれないようにできるだけ口当たりよくしたんじゃないだろうかと思う。そのためにものすごく労力と時間がつぎこまれているわけで、つまり意図したことだから、文句をいってもはじまらないことだろう。このサイトにメイキングがある。
キャラクターデザインはけっこうすきだ。『メアリー&』とおなじくおばさんキャラのショーガール、フォーシブルとスピンクがいい。あとはお父さん。モデルはべつにいるそうだけど、ほぼエイドリアン・ブロディだ。あと同年代の男の子ワイビー。間抜けでもあり愛嬌もあっていい顔だ。主役のコララインは観客層のうち同年代の女の子が感情移入したくなるようなキャラクター造形だと思った。彼女は見られるためにいるんじゃなくて、見て体験する側のよりましなのだ。
CGっぽいと書いたけれど、ストップモーションらしさを体現しているともいえるのは、キャラクターたちが重力にたいしてどことなく不自然なたたずまいでいること。手足が極端に細長くてふつうに立っていられないようなプロポーションなんだけど、それが元気よく飛び跳ねる。『ナイトメア』だけじゃなく、昔からストップモーションの画面のおもしろさは「質感は実写っぽいのにたたずまいが明らかに不自然」というところにあるわけで、その怪しさはところどころになごりがある。

おはなしは、アリス的な「狭い通路を抜けると異世界へ」物。『ローズ・イン・タイドランド』『マルコビッチの穴』もちょっと思い出した。序盤は物語の世界をひととおり案内、異世界にはいるとマジカル度があがってファンタジーの世界にどっぷりひきこみ、主人公がさびしく落ち込む夜をすごして、終盤は魔女と少女の対決(もちろんすばしっこさやちょっとした機転、お助け役の力をかりて)と追っかけっこで活劇風に見せる、という王道の展開だ。実世界でもお母さんの方が強めのキャラクターでお父さんはひょうひょう系、魔界に入るとお母さんはおそろしい支配者だ。支配的な母からの脱出物語的な香りもする。魔女=お母さん、蜘蛛キャラだしね。そのいっぽうコララインはファンタジーの中で『千と千尋の神隠し』さながらに実のお父さんとお母さんを救出したりする。
ちなみにお父さんとお母さんはガーデン業界のライターでカタログブックを製作中。アパートにはこった庭があるけれど2人とも庭いじりそのものはあまり好きじゃなく、PC画面にへばりついている。庭はもっぱらファンタジーの世界の中で見せ場が出てくる。ラストでは花盛りになっていたけど、ぼくとしてはぜひ老庭師でも出演させて庭づくりシーンをストップモーションで見せて欲しかったなー。