カントリーストロング


<予告編>
ストーリー:グラミー賞を何度も受賞したカントリーの女王、ケリー(グウィネス・パルトロー)は、苦しい立場にいた。人気はまだまだだけど、アルコール依存症がひどくなってきて、ステージで大きな事故をおこしたのだ。妊娠5ヶ月だったケリーは流産、心身ともにダメージをうけた彼女はリハビリ施設にいた。でも夫でマネージャーのジェームズはそろそろ復帰させようと大きなライブをブッキングする。彼女を心配するリハビリ施設のスタッフ、ボー(ガレット・ヘドランド)は、自分もカントリーシンガーで地元のライブでは人気者。ケリーの復帰ライブに、彼も、そしてアイドル系シンガーのチャイルズも前座で出ることになる。

この前に見た『クレイジーハート』のつながりで見てみた。カントリーの世界って…..? 的興味です。枯れた感じでどさ回りする『クレイジーハート』とちがい、こちらは世代も若くて、ショーアップされた現代風カントリーだった。僕がよく知らないだけで、カントリーって売り上げ的にもどメジャーなんだよね。反ブッシュ発言で外国人にも有名になったディクシー・チックス(僕もこれで知った)のアルバムはアメリカの女性ポップグループで売り上げ歴代1位だ。カントリーの位置づけがどうなのかはよくわからない。日本の男性ミュージシャンでいうと氷川きよしなのか長渕剛なのかEXILEなのか、全部含むくらいの幅なのか…...
とにかく、この映画のカントリーはステージも派手だし、サウンドも土っぽい香りはほとんどしない。それでも演歌歌手が勝負どころでは着物をきるように、ケリーもミニのワンピースにカウボーイブーツをはいてステージにあがるし、歌詞は苦労人風の嘆き節めいたテイストだ。これってひょっとするとブラックミュージック、つまりブルースの影響かもしれない。根拠はないけど、ブルースの常套句的なフレーズがちらっとあったしね。『クレイジーハート』とおなじで、主人公のシンガーは酒でまずいことになっている。これがドラッグじゃないのは映画のつごうなのか、カントリーという文化のイメージなのか、そこは分からない。

主演のグウィネス・パルトローはベテランポップスターをそれなりにゴージャスに演じて、特にステージはけっこうさまになっている。ビヨンセをお手本にしたらしくて、セクシーソングを歌うときの「ぬおっ⁉」とさせる見せ方はなるほどと言わざるをえない。もっと姐御系やジューシーなタイプの女優(ようするに女性ロックスター的な)だったらどうだろうと思わないでもないけど、この役は裏側のもろさや弱さが肝だから彼女でいいのかもしれない。『ザ・ロイヤルテネンバウムス』で美脚がきわだっていたがもちろん健在だ。
新人アイドル系のチャイルズは問題ある家庭にそだち、ルックスを武器に世にでて、エンターテイメント業界のなかで生き残ろうと考え抜く「目端のきく若手」キャラ。レイトン・ミースターは本人が問題あるどころじゃない家庭のうまれで(家族ぐるみで麻薬密輸にかかわっていて、彼女が生まれる前に母親もふくめて一斉に逮捕された)その彼女に「家族に問題があるならどのタイミングで公表するかが問題ね」なんてケリーがアドバイスするという、見ているときはよくわからなかったえぐさも実はあった。
そんなこんなで女優はともかく、問題は男優たちのぱっとしなさだ。好みの問題といやそうだけど、僕の中では男優が魅力的でないところで映画全体のポイントがけっこうさがっている。
まず恰好いい役のボー。彼は若いけど自分をもっていて流されない、自分の言葉をギター1本で歌にして、客が目の前にいる小さなステージで鍛えてきた、つまり映画のなかでカントリーの「ホンモノ」感を体現する男だ。お約束っぽくぼろぼろのピックアップトラックが愛車。ケリーに思いを(体もな!)寄せていて、旦那をさしおいて助けたりするいっぽう、チャイルズとも仲良しだ。そんな彼だけど、アメリカの坂口憲二的なガレット・ヘドランドのたたずまいに、どうにもフェイク感がただよってしまうのだ。2人の女の間をうごくのもあっちがダメならこっち的ごつごう野郎にも見える。

それからケリーの旦那、ジェームズ。彼の役はボーより複雑で、妻であるケリーに愛は残っているけど、マネージメントに重心がいっていて、ケリーにとっての2人の関係とズレがある。それでも妻という思いもあって.....このあたりが哀しみのコアだ。でもティム・マッグロウがいまひとつ。役どころとして華のあるスターと裏方のマネージャーの地味さのコントラストを出すねらいかもしれないが、それにしても地味だし、残り火的な愛の部分があまり見えない。もちろん演出の問題もあるんだろう。プラス、ここはもっと分かりやすく魅力的な役者でもよかったんじゃないの?
お話は、ケリーの復帰にそって、最初の大きな復帰ライブ、そこでの失敗、そしてそれぞれの苦悩があってツアーファイナルのライブがクライマックス。映像的にも、ステージのシーンも、全体の哀調も、わりと見られる(男優問題はさておきな!) 。『クレイジーハート』とおなじように役者が自分で歌っている。ボーにはケチをつけたけれど、ギターやピアノ弾き語りの歌はさまになってるし、聞いていて心地いい。この映画歌が下手だったら悲惨だしね、そこ重視でえらんだとしても無理ない。オチはボー甘々の展開(ただナチュラルメイクになったチャイルズが可愛い)だが、じつは真逆の展開のラストシーンも撮っていて、DVDの特典映像で見られる。話の流れには没シーンの方があっているけれど、それも既視感ありすぎのセリフや絵面だし、どっちにしても蛇足感あふれるラストなのであまり影響はない。