最強のふたり


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ストーリー:妻をなくし、パラグライダーの墜落事故で首から下が麻痺した富豪、フィリップ(フランシス・クリュゼ)は新しくケアスタッフをやとう。はなから不採用のつもりで面接にきた失業中のアフリカ移民ドリス(オマール・シー)のストレートな口調が気に入ったフィリップは彼をやとうことにする。豪邸・教養あふれる世界・貴族階級のひとびと……の中でも自分らしさを発揮するドリス。フィリップの退屈な日々にもひさしぶりに「初めての体験」が帰ってくる。
フランス映画史上、歴代2位のヒット作だそうだ。1位はBienvenue chez les Ch'tis(welcome to the land of shits) という「なにそれ?」といいたくなるタイトルのコメディ。どうもハゲのおじさんが若干無茶をする物語らしい。大ヒット作というのはこむずかしい話じゃいけない。フランスだってそうなんだろう。本作もとてもとてもわかりやすい物語だ。すました貴族階級のたいくつなひとびとの中に闖入者としてあらわれるドリス。かれの粗野で強引で無鉄砲な行動が退屈な日々にどんよりしていたフィリップを活性化していく。ドリスは粗野なだけじゃなく、もちろんインテリジェンスがあり(しかも芸術的才能まであり)、フィリップのなくてはならないパートナーになっていく。
あるよね、こういう昔話。適当な例が思いつかないから強引に持ち出せば、豊臣秀吉だってちょっとこういうとこあるんじゃないの。この物語の特別なところはそれが実話ベースだというところだ。実話ではドリスじゃなくアルジェリア系移民のアブデルという人。 製作サイドがコメディアンのオマール・シーを使いたくて西アフリカ系に設定を変えたんだという。シーは実話のアブデルとくらべると、スタイルがいいイケメン系。たしかに画面映えはぜんぜんいい。このブログだと『ミックマック』に出ていた。でも正直印象がうすくてぜんぜん気がつかなかった。

物語は、どっちかというとさっき書いたみたいな「たいくつな貴族の社会に入ってきた平民の男がもちまえの人間力で周囲を変えていく」面がメインだ。障害者となったことで社会のマージナルな存在になってしまったフィリップと、まずしい移民で、別の意味でやはりマージナルな存在であるドリスの連帯、みたいな部分はそんなに強く描かれない。とくにフィリップにまつわる福祉的な視線はそうとう抑制されている。むしろドリスが社会の主流から排除された場所の住人だという面の方が時間をかけて描かれている。フィリップの障害は、「富はじゅうぶんにあるけれど自分の意思でできることがほとんどない、無力な高い身分の人」というキャラクターを象徴するみたいにも見える。こういう設定ってすごく既視感があるでしょう。昔話の王様とかで。身体的な無力さで、社会的にはずっと弱者のドリスとパワーバランスがとれるのだ。

語り口はシンプルで、強引にフィリップを引っぱっていくドリスは、観客が安心して感情移入できるように、ちゃんと社会的モラルも職業的モラルもセンスもある人という設定になっている(ちょっと出来心を起こすところもあるけど、観客が「こいつ信頼していいのか….?」と迷わないレベルだ)。フィリップはドリスの強引さをいやがることも恐れることもあまりなくて、2人の間に葛藤らしい葛藤もない。そんなこんなで、ぼくには少しスムーズすぎるお話ではあった。
ある出会いからフィリップが逃げ出す一連のエピソードはそれでも彼の状況にすこし入り込んでいた。逃げ出したフィリップはドリスにたのんでパラグライダーのゲレンデに行く。ここも富豪らしく、豪快に600km突っ走ってジュネーヴに近いMont Bisanne というところまで一直線だ。
そんな豪快な移動を身につけたドリスが今度は一気に大西洋岸までフィリップを連れて行く。ラストシーン、 Cabourgという町の海辺のレストランに行くのだ。このあたりドリスがどう段取ったのかはさっぱりわからないけどまあいいじゃないか。たぶんレストランはここだ