インスタント沼


予告編
ひさしぶりに本気でつまらないと思える映画に出会った。軽い感動を覚えるくらいにね。出だしのフィルム風に荒らした画面の自己紹介から始まってラストのとって付けたような「いいこと言ってるあたし」セリフまで1シーンをのぞいて面白いところがまったくなかったのにはおどろいた。よっぽど僕はこの作風と相性が悪いんだろう。ていうか、5年前の映画にけちつけてみても始まらないか…….前の『純喫茶磯辺』のモッコとこの映画のハルエ、どっちも麻生久美子だけれど、役はだいぶ違う。こっちはほとんど陰りがなく、多弁で、テンションが高く、ちょっと痛いくらいにはしゃいだり跳びはねたりする。メイクのせいかそんなに若く見えない麻生久美子の雰囲気からすると、つくったキャラ感がそうとうに濃い。観客からすればリアリティがないから、自分や誰かに引き寄せることもなく、突っ込み上手でかつ突っ込みやすい、安心して消化できるよくある美人キャラだ。

そしてこのキャラは一瞬も黙らない。会話とモノローグのどっちも説明過剰なまでに思いと望みを全部分かりやすく言葉にする。もちろん喋りっぱなしの脚本は狙いなんだろうけど、だからって言い回しが独特だったり面白さがすごくあるわけでもない。細かく散りばめられるギャグがまったくおかしくないのは、こっちが笑う前に画面の中の人が何か言ってしまうからでもある。あとは笑わせどころが「説明なしで現れるちょっとずれた人やモノ」パターンが多くて既視感ありすぎなうえに、「これおかしいでしょでしょ」的プレゼンテーションなのもきつい。
それから、彼女が始めるアンティークショップ。「女子のお店モノ」ってわりとゆるふわ系日本映画でよくあるパターンで、たぶん観客の自分の城願望をヒロインがかなえてるということなんだろうけど、例によってちょっとひと工夫した程度で「いつのまにかお店はうまくいっちゃってます〜」的展開。このファンタジックなコメディで苦労話を描けとはいわないけど、本気で開店を考える段階まで行ってない人のぽわわ〜んとした白日夢みたいだ。
ラストで、唐突にそこまでのファンタジーのレベルから突き抜けるので、軽い爽快感があるっちゃあるんだが、それにしたってまぁなあ。
ロケ地は黄金町や野毛周辺がわりと多くて、伊勢佐木町馬車道にめだつ防火帯建築といわれるビルが主人公の住まいになっている。地上はちょっと古めの店が並んでいて、上を見るとブロック全体が4階建てくらいの一つの建物でつながっている、ドイツあたりの街みたいなビルだ(ドイツのと違うのは、ざんねんながら中庭がない)。1950〜60年代に建てられた、雰囲気あるビル。インテリアはセットかなと思うけど、あれはよかったね。