ロスト・イン・ラ・マンチャ


<予告編>
こちらは撮影延期や中止話がやたらと多いテリー・ギリアム師のドキュメンタリー。僕は彼の『ラスベガスをぶっとばせ』とか『ローズ・イン・タイドランド』とか大好きだ。逸脱していくものへのかぎりない愛情と共感に満ちている。でもものによってはひたすらに過剰で、締まりがないように感じる時もある。そんな彼が逸脱のシンボルとして愛するドン・キホーテ、彼を主人公にした映画が構想10年でとうとう撮影できることになった。監督はもとの話をひねって、サンチョ・パンサのかわりにジョニー・デップが演じる現代の男をはめてみる。恋人役にヴァネッサ・パラディを配置して、つまり売るための押さえもいちおうされてるのだ。
映画はアメリカでは資金が集まらず、ヨーロッパ各国の出資になる。そうなるとハリウッドなみの大作は無理だ、と関係者たちはいう。はじめから資金難での撮影だ。それでも撮影準備で思いのままにイマジネーションを拡げている監督は楽しそうだ。彼の頭の中の妄想はスタッフたちによって少しずつ物になっていく。
ところが撮影初日が迫るとトラブルがはじまる。主演のジャン・ロシュフォールが不調になって現場に来ない、やっと来て撮影がはじまるといきなりの超豪雨。信じられないくらいに降り、避難させた機材までが流されていく。たちまちセットも機材も泥だらけになって、水がひいてもすぐには撮影再開は無理だ。しかも乾いた大地は雨をたっぷりと吸いこみ、がらっと色が変わって初日と別の場所みたいになってしまう。
間抜けなことに撮影地は軍の練習場のとなりで、ジェット戦闘機のカン高い轟音が1日中まったく途切れない。とどめは主演のロシュフォールの体調不良が悪化して撮影どころじやなくなり、パリで入院しまうのだ。しまいに笑えてくる悪夢の連続だ。でもギリアムは笑わない。

じつはこの映画を見ているとちょっとテリーどうなんだと思わずにいられんのだ。たしかにスタッフたちがいうみたいに「信じられないような不運の連続」なんだろうきっと。構想10年の撮影現場がそんなことになれば監督泣けてくるのも無理ない。でも、真面目な助監督がこの状況でもなんとかしようと監督に進言しても、「これじゃぜんぜんダメだ」「この状況じゃ何かしたってムダだ」「どうせ別のトラブルがおこるんだ」「あぁもう手がない.....」このネガティブなノリ。いいのか大将が。ひょっとしてギリアムの現場で中止や延び延びが多いのはこのネガティブ思考が原因なんじゃないのか?と思うほどだ。勉強になるねー。現場のリーダーはガマンしなきゃいけないんだろうね、そういうこと言いたくなっても。
結局、ロシュフォールはすぐに治って乗馬ができる可能性がまったくないことがわかり、撮影続行は不可能に。収拾専門のプロがやってくる。映画は彼らの手にゆだねられて、最高の仕事とおもちゃを取り上げられた監督は、街を見下ろす部屋で、はだしで横たわる。