アメリカン・ティーン


<予告編>
ある高校の生徒たちの1年。舞台になる人口13000人の小さな町ワルシャワは、シカゴから200km。どこが町の盛り場だかわからないようなところだけど、中心部に湖がいくつもあって、水辺の別荘地みたいなのもある。なかなかいいロケーションだ。ちなみに青春映画の古典『ヤング・ジェネレーション』の舞台、Bloomingtonからだと300km弱、同じ州だ(近いのか遠いのかわからないね)。そして舞台になる高校。広すぎるくらい広い。こんな(多分)平和な町が舞台だ。人口の90%近くが白人のこの町では多人種国家の空気はうすい。オール白人で人種問題にあえてふれられていなかったオーストラリアの学園もの、『明日、君がいない』とそこは似ている。たとえば学校ものでいえば、逆にあえて人種のるつぼ感をテーマにした『パリ20区、僕たちのクラス』とはずいぶん違うアプローチだ。日本の、しかも男子校で何ともいえない感じにはぐくまれたぼくからするとすでにファンタジーだよこれ。
さてこの映画、キモも、それから議論を呼ぶのもドキュメンタリーとして撮られているという点だ。出演者はみんな実名で役柄通りの属性。監督はこの町のこの高校を舞台に決め、出演者たちを選んだ。映画の印象は普通に良くできたドラマだ。例えばフィクションということになっている『エレファント』(これもオーディションでえらんだ高校生たちが実名で演技したし、アドリブでしゃべった)より雰囲気はドラマっぽい。すくなくとも、たとえば『精神』の想田監督の映画みたいに、できるだけ「そこでおこっていること」に影響を与えずに観察する(とはいったって影響ゼロはありえない)、というスタイルとは違う。実在の人たちに、現実世界を舞台に、ドラマを演じてもらう、みたいな映画だろう。
撮影風景。右が監督のナネット・バースタイン
この話が100%ドキュメンタリーであるかは、見ているぼくたちからすればそんなに意味はない。演出があるから感動がなくなるというタイプの話でもない。そりゃセリフや振る舞いには、彼らの中から出たきたからこその何とも言えない味はあるんだろう。それでも、それが演技こみだって何の問題もない。「えっ演出つけられてるの?」といってしらけるのは、オリンピックのアマチュアリズムをやたら大事にする倫理観みたいなものだろう。どっちにしても事実と虚構の境界は、ぱっくり白黒で別れるものじゃなくグラデーションだよね。カメラがなくたってぼくらは場面に合わせて演技するし、キャラクターをつくる。カメラの前のそれがどの程度彼らにとって演技なのかはそれこそ人によってもシーンによってもちがうだろう。

とはいってもやっぱりドラマっぽいのはたしかだ。出演者の選び方からはじまって、結果的に5人の主要な人物のキャラがあまりにも描き分けられているのもある。女の子2人とボーイ3人。いわゆるスクールカースト上位の、高校バスケットのスター:コーリン、そのチームメイトのイケメン:ミッチ、プリンセス:ミーガンの3人と、あきらかに下位のおたく:ジェイク、それにランク外みたいな位置の「アート系」:ハンナ。
彼らはフラットに描かれてるといえばそうだけど、もちろんそうでもない。あきらかにヒロイン扱いなのはハンナだ。かわいい部分が多く使われて、嫌なところはひとつも描かれず、だれでも好きになるような撮られ方だ。それに対してミーガンは嫌なところが強調されて、そうそう好きにはなれないキャラクターに描かれる。このあたりも本人承諾がないと気の毒すぎるくらいな扱いなのだ。コーリンとジェイクはそれぞれの問題(バスケで奨学金をもらえるか、彼女をみつけられるか)にほぼ焦点がしぼられ、ミッチはもっともバランスが取れている分、もっともつまらないキャラクターで、他の人を引き立てる役でしかない。カースト上位にいるくせに、違う世界のハンナとも仲良くする彼は二つの世界をつなぐ役でもある。『桐島、部活やめるってよ』の宏樹に近いポジションなんだろう。そういうふうにキャラクターごとの問題がしぼりこまれて、話はすごくシンプルになっている。
 圭祐はどの娘だ?
それにしてもあれだ、プリンセスのミーガンは「美女代表」みたいなことになっているが、実物目の前にしたらゴージャスなんだろうけど、アップで見るとわれらが日本代表、本田にそっくりだ。彼女にいじめられるグリーンアイの友達のほうが数倍かわいい。ヒロインのポジションはかわいさでなるものじゃないんだなとよくわかる。あたり前だけど権力のトップにいる肝は「強さ」だ。家が町の代表的な名家なのも、その攻撃性もふくめてだれよりも強いのだ。まえに日本のお笑いの人が、「お笑いで上位にいる人はおかしいわけじゃない、強いんだ、目の前で見るとこいつら強ぇぇと感じる」といっていてすごくはっとした。そういうことだ。
ところでいじめられる美人は、セルフヌードを彼氏に送ったらあっという間に拡散されてネット上にアップされるという話で、「傷ついた」といってさめざめと泣くんだけど、あれだよね、よく動画である、プライベートっぽい自分撮りでストリップするみたいなのって(しかもアメリカ的なそこそこいい家で撮られていて)こんな経緯で東洋のお茶の間にも届いているんじゃねえ。いやなんかすいませんほんと。
どのキャラに思い入れしたり共感したりは見る人次第だけど、ぼくがちょっといいなと思ったのはおたくの、そのくせやけに積極性があるジェイクがアタックする女の子たちだ。彼女たちは脇役あつかいで、校内の女の子界でもたぶんそんなに上位じゃないんだろう。それでも彼にひどく残酷にしてみたり、逆に彼にちゃんと男をみてくれたり、そのあたりのリアリティがやけにいいのだ。一番にこにこしてしまうシーンはなぜかDVDの未使用シーンにあったりする。ま、全体に間口が広い、かわいい映画なんだよね。