ホットスポット


<予告編>
デニス・ホッパーの代表作となると、結局最初の『イージー・ライダー』じゃないか、ということになってしまいそうだ。じっさいそれくらいしか見てないし。「えっブルーベルベット見てないんかおみゃあ」という問題じゃなくてね。出演作じゃなくて監督作のはなし。wikiimdbによればデニス・ホッパー監督作品は10本弱が公開されている。1つは途中で怒って降りてしまったからよくある「アラン・スミシー」名義になってるそうだ。この『ホット・スポット』も監督作の1つ。ちなみに出演作だとぼくが好きなのは『アメリカン・ウェイ』という1986年の映画。古い爆撃機をラジオ局に改造して、空中から電波に割込む海賊ラジオ局のキャプテンの役だ。要するに豪快ハッカー集団の話。パンキッシュな、なかなか気持ちいい映画だった。
ストーリー:なにもない、田舎のほこりっぽい街にふらりとやってきた男、ハリー(ドン・ジョンソン)。古いコンバーチブルに乗り、バブルっぽい時代のスーツに身を包んで。男は地元の中古車屋でセールスマンとして雇われる。そこには2人の美女がいた。ひとりは事務員の、まるでこの場所に似合わない美少女グロリア(ジェニファー・コネリー)。もう一人は社長の妻ドリー(ヴァージニア・マドセン)。これも社長と不釣り合いなモンロー系セクシーだ。もちろん色男ハリーに2人とも…。そこにもう一人「造園屋」という肩書きの、人相の悪い小汚い男がちらちら現れる。ハリー自身もまったく正義の男じゃなく、あきらかに何かたくらんでいる様子だ。熱く、退屈な田舎の街。ある日真昼どきに火災報知機が鳴り響く…
この映画、正直、なぞめいている。なんというか狙い的な部分で。というのも、1990年公開のこの映画、そのB級感、テレビ東京午後ロードショー感(実際はエロすぎてやらなさそうだが)においてあまりにもハイレベルだからだ。フィルム・ノワール展開そのものだし、ジャンルムービーを作ろうとしていたのはたしかで(予告編でも「90年代のノワール」と言ってる)ある種パロディのつもりで撮っているところもあるのかなとも思う。でもそこにある「格好よさ」のパーツが、その時点でどのくらい本気だったのかがなぞすぎる。プロットはともかく、シーンのディティールが、狙った結果の古臭さ・B級感なのか本気でこうなったのかつかみきれないのだ。
なんといっても主演のドン・ジョンソンだ。代表作『マイアミ・バイス』が1989年に終わり、この映画の公開の頃に『ハーレーダビッドソンマルボロマン』を撮影した、まあ絶頂期のドンだ。にしてこのB級感。監督デニス・ホッパーの手腕は人気俳優のB級感をあますところなく、というかどう見てもそうとしか見えないくらいに存分に引き出した。その着こなし。タックが入りすぎただぼだぼのパンツを腰高にはきつつのスーツ姿。そしてそのスーツを着て何をするかといえば、田舎町の中古車屋にふらっとあらわれて急に口八丁になってボロ車を売りつけ、即座にそのおやじに雇われる。「凄腕」感がこの表現。その後も一度もおどけるシーンはなくて終始「いい男」の役を忠実に演じつづける。
デニス・ホッパーは「ドンは専用のヘアメイクとスタイリストを連れて自家用ヘリで現場に来てたよ」と語っている。いっつも5人くらいお供を連れてたね、とね。たしかにいつもサラサラヘアーがやけに印象的なのだ。 スターというのは、本人が実際どうかは別にして、だんだんと神秘的・超俗的な空気をまとうタイプがいる。トム・クルーズはもちろんブルース・ウィルスだってラッセル・クロウだって、今ではそんなオーラをまとっているような気がする。でも、少なくともこの映画当時のドン・ジョンソンは違う。これ以上ないくらいの俗っぽさで、真面目に色男を、ハードなワルを演じるほど芸能の香りが立ちのぼるのだ。

お話は、いろいろダークな因縁とか用意しつつも、ハリーが美少女と社長妻のあいだでうろうろするというシンプルな3角関係モノ。男はハリー以外「彼をめぐる周辺人物」つまり引き立て役以上のなにものでもないし、引き立て役以上の魅力がある人物もいない。何もないこの街では彼以上の色男もワルもいないのだ。ハリーは、清楚でしかもゴージャスボディーのグロリアに惹かれる。監督はもちろん2人が湖に泳ぎに行くシーンや回想シーンの中のヌードを用意して、ジェニファー・コネリーのセクシーショットをきっちりとキメてくる。しかしノワールもの特有のファム・ファタールはドリーの方だ。はなっから誘惑してくるドリーは社長妻という立場も利用しつつ、いつの間にかハリーの鼻面をつかんで引きずり回す。より露骨なお色気担当は彼女だ。こちらもヴァージニア・マドセンが全開で頑張る。彼女は約10年後の『サイドウェイ』では真面目に生きつつも色気が隠しきれない、魅力的なヒロインを演じていた。
まあそんなこんなで、この映画、今となってはジェニファー・コネリー目当てで見るしかない一本じゃないかという残念な結論にたっしつつある自分がいる(いやヴァージニアが好きなひとももちろん)。しかしアレだ、日本でもバブル期の映画を見るとヒロインの時代感にえも言われぬ味わいを感じるわけだが、この映画のジェニファーも眉の感じとかがみごとに80年代的すぎて、これもまたいっそう味わいを増している。